小説

□ひとりよがり≪蝣稀様より≫
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俺にだってよく分からない


何でこんな事になったのか、とか

何でこんな体なのか、とか

何で俺が選ばれたのか、とか



だけど

俺は笑っていなきゃいけなくて


でも俺は果たして笑えているのか



でも俺は

俺の大切な人に、笑ってあげなきゃいけないんだ

















「…じゃあ、俺等は帰るぞ?」


咲輝が、みんなが、俺を哀れんでいる気がした


そんな顔をしないで

こんな時ばかりは神様を恨む。




「大丈夫だって!また来てくれよ〜」



バタン、と閉まる音が急に俺の視界を暗くさせるような気がした。


こんなにも白い世界がこんなにも恐い



大丈夫だと思う事も、そう伝える事も決して嘘ではないのに


胸がぎゅっと切なくなって

呼吸は荒くなって



ただ、俺が独りだと

この白い世界が訴えかけてきている気がして



―どうせ俺はもうすぐ独りになるというのに





でも

今こうしているこの時までも独りにしなくたっていいじゃないか



独りは、いやだ

独りは俺をこんなにも弱くさせる






我儘を言って

この気持ちが楽になれたのならどんなに救われるだろう









「―、い、おい」


ふと声を掛けられ顔を上げた。



しまった。

こんな顔で。


きっとすげー情けない顔してる





「…雨月」


目が合った人物は哀沢だった


不覚にもこんな弱い俺を見られてしまった。

大切な人に―




「―、な、なんだよ!哀沢かよ」



急遽作った笑顔。

俺、ちゃんと笑えてる?




「…んな顔すんな」


哀沢の冷たい手が俺の顔を覆い隠した。
振り払う事も忘れてその冷たさに何もかもが奪われていくような。


貼り付けた笑顔が崩れていく感覚



無意識にその手を掴んだ。
縋りたくて仕方なかったんだ、俺は。


この人だけが分かってくれるような、そんな錯覚




この白い世界に俺と哀沢の二人だけ

いや、この世界に二人だけ





俺は愚かにも生きている証が欲しかったんだ







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