小説

□ひとりよがり≪蝣稀様より≫
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「…っ、は、無理すんな」




この心の底から湧き上がる、暖かな気持ちはなんだろう



「ん、ぅ…無理、じゃねぇ、」


見下ろした視線と俺を見上げる視線が絡まるだけで快感が一点に集中する。



好きなのかも分からない

俺も、哀沢も





「、くく、…いい眺め」



意地の悪い笑みを浮かべて俺を責めるその顔も

薄らと滲む汗も

こうして繋がっているという事実も


何故か胸が痛くなる程に愛しく思う



錯覚か
幻覚か


どちらにしてももう戻りたくはないと思った

このまま、溺れてしまいたい




「、あ、いさわ…っ」


昇りつめるこの何ともいえない感覚

哀沢の上に倒れこもうにもしっかりと上半身を支えられ、変に力が入る




「っ、お前…さいこ、う」


苦しそうに
愛しそうに

そんな目で俺を見ないで




結局は独りになるというのに


縋りつきたくて縋りついたその手はあまりにも心地良くて

生きている、と感じてしまった。





「あ、ん…哀、さ、わ…っ」



この先は何も望めない、望んではいけない

踏み込めないこの領域




「…、雨月、…」


名前を呼ばれると勘違いをしてしまいそうだ



哀沢は俺が好きで

俺は哀沢が好きなのだと





「ん、はぁ、…も、っと…呼んで、よ…」


それでも

求めてしまう、望んでしまう俺を許して




「、…っ、ひと、み…っ!」



その優しさが後に残酷でも

俺には心地良いから


「あい、さ…んっ!」


起き上がった哀沢に体も真っ暗な心も

全て包まれた



「や、だ…っ!」



俺だって知らない、俺の深く深い所に哀沢を感じる

髪に、耳に、頬に、唇に。
哀沢を感じる



「…、好き、だ…!」



余裕のない哀沢なんて初めて見た。



そして

好きだと言うその唇を塞いでやった


これ以上、俺を独りにして欲しくなくて
好きだと言えばそれで終わってしまう気がして


俺の舌を掬い上げて
俺を貫いて

その全てを、俺は忘れてしまうのだから



お互い、唇を放さぬまま

背中へと、首へと回したその腕を放さぬまま


心まで離れぬようにと

まるでそう言い聞かせるようにして頭の中を白くさせた





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