小説
□咲愛U≪槞唯Side≫
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もし浅希が自分の傍からいなくなったら―…
そんなことを考えるようになってしまった。
結果はいつも同じで、ただ前のように独りになるだけのことなのに。
またひとつ、考え事が増える。
「足利くん、来週までに頼むよ」
「分かりました」
たいして尊敬していない教授から仕事を任された。
これで何度目か分からない。
親睦会担当、会議の資料作り、講義、おまけに自分の研究の論文もあるというのに。
「ルイちゃん今日飲みに行こうよ!」
「雅鷹さん申し訳ありません。会議の資料作りがあるので」
「また任されたの?断ればいいのに」
断れば負けたような気になる。
だから仕事は引き受けるようにしている。
無理すれば出来なくない。
こんなことは日常茶飯事だ。
「ルイさん、体調悪いんですか?」
「いや、仕事を任されすぎて寝てないだけだ」
「風邪引かないでくださいね。行ってきます」
気分がだるいのはいつものことだが、今回はやけに苦しさを感じる。
余裕が出来て時間が立てば大丈夫だろうと思い、資料作りに専念した。
今日は珍しく講義がなく、1日家で自分の仕事に打ち込むことができる。
ふと時計を見ると15時だったので、久しぶりに母校の様子を見る為と生き抜きの為に浅希の通う学校へと向かった。
毎日電車で1時間かけて通っているのかと思うと、大変だなとつくづく思う。
明星北王高校は母校で、来たのは教育実習依頼だ。
「お久しぶりです荒蒔先生。足利です」
「足利くん?いやぁ、年とったねぇ」
「私ももう29ですから」
当時の担任に会い、会話が弾む。
浅希から聞いたところ、荒蒔先生が浅希の担任でもあるらしい。
「神城浅希はまだ校内にいますか?」
「神城…?神城は今日も休みだが。知り合いなのかい?」
「えぇ。まぁ。…休みですか」
「神城はよく学校を休むんだよ。成績はいいから何も言えないがね」
休んでいる?
浅希からは何も聞いていない。
隠し事をするような子ではないと思っていただけに、謎が深まる。
帰ってきたら問いただそうと思い、帰宅をした。
帰宅後すぐに体調が思わしくないのでベッドに横になった。
何時もとは違う苦しみ。
頭痛がする。
吐き気もする。
―…色々と気持ち悪い
「ただいま」
浅希の声が聞こえた。
どうやら帰宅したようだ。
「具合悪いんですか?」
「今日学校はどうだった?」
「え?まぁ…普通でしたよ」
まさかとは思ったが、こうも平然な態度で即答されると腹が立った。
だから浅希の腕を掴み、押し倒して馬乗りの状態になった。
「本当に?」
「…どうかしたんですか?」
お前があの場にいなかったことは、実証済みだというのに。
なぜ嘘をつく?
いつから騙されていたんだ?
またひとつ、考え事が増える―…
「学校に迎えに行ったら、浅希はよく学校を休んでいると言われたのはどうしてだ?行ってないのか?理由は?」
黙る浅希を見ているのが辛かった。
自分だって、神城が死んだことを隠しているのに。
これで平等じゃないか。
分かっている、
「お前が嘘をついているとは思わなかった。理由は?」
矛盾していることも、
問い詰める権利が無いことも、
分かっているのに―…
「理由は…ごめんなさい…言えません…」
浅希のその一言で、体の力が抜けた。
「そうか…」
所詮は他人。
お互いを関与する権利なんてないんだ。
これ以上、考え事を増やしたくは無い。
だから、浅希が話したくないのならそれでいいと思った。
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