小説

□咲愛X≪槞唯side≫
1ページ/6ページ



父親にスペイン行きの返答をすると、喜んでいた。



自分の評価が上がるからだろうけれど。



宮本はプライベートのせいであと1ヶ月ぐらいは精神的に余裕が無いと言っていて、浅希の記憶はまだ消せないらしい。



スペインに行くのは1月。



日本を離れるまであと3ヶ月ある。



浅希とはあと1ヶ月しか一緒にいられないのか。



「浅希、行きたいところはあるか?」


「えっ…?映画も見たいし、あとは遊園地とか、水族館とか。マンボウ見てみたいです!」


「そうか。休みが重なったら行こう」




浅希と思い出を作りたいと思った。



浅希の記憶は消されてしまうけれど、



それでも思い出を作りたい。



自分のために。



「おやすみ」


「おやすみなさい…」



犯された日から、浅希は触れると怯えてしまうようになった。



キスさえも拒まれる。



当たり前か。



だから今は別に寝ている。



抱いてしまえば離れたくなくなりそうだから、



だから、それでいい。














11月になり、スペインに行くまであと2ヶ月となった。



「水族館なんて初めてです!綺麗ですね」



休みが重なったので、浅希と一緒に水族館に来た。



浅希がかなり喜んでいたので、こちらまで嬉しくなった。



「サメの歯って間近で見ると本当に凶暴ですね…あ、クリオネだっ!」



浅希が喜んでいる姿に見とれていると、携帯の着信が鳴った。



ポケットから携帯を取り出すと、宮本からだった。



「はい」


『足利さん、ようやく準備が整いました』



内容の予想はついていた。



浅希の近くでこのやり取りを聞かれるのはマズイと思い、近くの休憩室に移動した。



「ありがとうございます。日程は?」


『俺は明日からでも大丈夫です。足利さんと浅希の都合の良い日で』


「次回のカウンセリングは来週の日曜でしたよね?その日でお願いします」


『分かりました』



電話を切り、煙草に火をつけた。



来週の日曜で全て終わる。



浅希の記憶から足利槞唯という存在が消える。



もう二度と会うことはないだろう。



「ルイさん、こんなところにいたんですね!イルカショー始まりますよっ」



こうして笑いながら共に同じ時間を過ごして、作られる思い出も消えてしまう。



「分かったよ」




浅希の中から消えてしまう。



こうして繋がれている手から感じる浅希の温もりも、



全て過去になってしまう。




それでいいと望んだはずなのに、



こんなにも苦しいものなのか。




温もりが痛く感じた。






.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ