突発ネタ小説

□変性的マンネリスト
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(※クラウドがイロイロ暴走モード突入してます…)


―本当は、最初から全て分かりきっていた事。

たった一度でも、他人に手を上げてしまえば、きっとそれが癖になって…

―止められなくなる。

―また、やりたくなる。


「(…眠れない…)」


…ここ最近、
ずっとこんな調子だ。

ソルジャー…英雄に憧れて、家を飛び出し、わざわざミッドガルまで遥々上京してきて適性試験を受けてみるも、結果はいつも『不合格』。
その度に、何度も予習と復習を重ねて再度試験に臨むが、
今だ相変わらず、全く手応えが感じられない。

そして―いつからだろう。気が付けば、とうとう夢の中までもが『適性試験に合格できない』という現実に侵食されてしまい、
まるで、底無しの沼に沈められるような程に、後味の悪い朝が続いている。

今夜もまた、神経が高ぶっていて眠れそうにない。
あまりにイライラし過ぎて、胃に穴が開いてしまうのではないか、と思うくらいに胃酸が逆流してきて今にも吐きそうだ…


「…う…ぐ、っ!」


ついに胃酸が喉元までやって来たので、仕方なくそれを無理矢理飲み下した。
ほんの一瞬だけ、胃酸の不味さに顔がくしゃりと歪むが、直ぐに落ち着いたので、ほっと胸を撫で下ろす。

―ふと、近くからすぅと静かで安定した寝息が聞こえてきて、隣を見ると案の定同じベッドで就寝しているザックスの姿が。

…そういえば、ザックスはこうやって俺が眠れない時でも、いつも熟睡している…

―その熟睡ぶりがとても羨ましい反面、実は憎らしくもあり、それがやがて『歪み』と変化するまで、そう時間は要らなかった。
ある時を堺に、俺はこうして気持ち良さそうに眠るザックスに気付かれないようにベッド側にあるサイドテーブル置かれていたカッターナイフを握り締め、
チキ、チキと音を立てて、刃を限界ギリギリまで出す。


「…………ッ、」


手に妙な汗が垂れてきて、全体的にヌルヌルする。
心臓が、どくんどくんとやたらに騒がしい。

先ずは手始めに、ザックスの頬にそっと刃先を這わせるように軽く動かせば、
真っ直ぐで綺麗な横線みたいに薄皮が切れ、欝すらと血が滲み出てきた。


「…ん…、」


その瞬間、いきなりザックスが声を出したから、てっきり起きたのかと思って警戒してみるが、
そのまま起きる事なく、単に寝返りを打っただけ。
先程とはまた違う意味でドキドキさせられた…

ああ…ヤバい、
ザックスを傷付けるのって…結構楽しい、かも知れない…

一度、その行為が『楽しい』と脳にインプットされると、
最早、俺のこの動きを制御出来るものは何もない。

俺は楽しくって、
もっと…もっと俺の手で存分に台無しにしてやりたくなって、次は胸と脇腹辺り、足の付け根に膝小僧と連続的に切った。

―勿論、ザックスの着ていた服の上から切った為、
肌も服も揃って目茶苦茶になってしまった。しかも、そんな今日に限ってザックスはソルジャーの制服のまま眠っていたので、これは明日、出社前に嫌でも着替える羽目になるだろうなぁ…なんて、らしくない呑気な事を考えてみる。


「……………」


何気なく、胸付近に付けた傷口が目に留まり、まじまじとそれを眺めていたら、またもや良からぬ感情が芽生え出すのだから、やっぱり俺は、
ついに…本気でおかしくなっちゃったのかな…?

普段は、他人の血なんて見ても何とも感じない…筈なのに、今回の『それ』に関してだけはどうも違うらしい。
…ていうか、これがきっと俗に言う『色っぽい』ってやつなのか…うん。


「…………っ」


―気が付けば、殆ど無意識に胸元の傷口の血をペロリと、舌で舐め取ってしまった。錆びた鉄の味が口中に広がる。


「ん…っあ…」


流石にこんな事をすれば、誰だって目が覚めるだろう。
小さく吐息混じりの声を漏らし、ザックスが擽ったそうに身をよじり出した。


「…ザックス…?」


もういい加減、起きてしまうだろうと思い、名前を呼んでみる。それに合わせて、ザックスがゆっくりと瞼を開き始めて、焦点が合わない瞳でこちらを茫然と見つめている。


「…クラウド…?
…って、アレ…?」


最初は、ザックスも寝ぼけていたから気付かれなかったのだが、
俺の左手に、奴の血で汚れたカッターが握られていたのを見るや、
ヒィッと息を呑んで、柄にもなく目を見開き怯えたような顔をして俺を見る。


「(…っと、
しまったっ!今はこんなの持ってちゃ駄目だ!!)」


ハッと我に返り、洞穴に頭を隠すつもりで慌ててカッターの刃を仕舞って、サイドテーブルに向かって投げつけると、
残念ながらテーブルの上でガツンと弾かれて床に落ちてしまった模様。
でも、実は凶器を捨てた所で俺の左手は、多少だがザックスの返り血を浴びてしまい、
こればっかりはどう考えても、上手く言い訳出来そうにない。


「…な…なぁ、クラウド…お前…何で…ってか…え?それ、まさか…血…?」


大分混乱しているみたいだ。呂律の方もかなり怪しい。まぁ、ある意味当然の結果ではあるが…


「…ザックス…」


再度名前を呼ぶと、びくりと肩を震わせて酷く怯えた様子でこちらを見るザックス。

…とりあえず、下手な言い訳すら今の俺のこの頭では思いつかないようなので、
それ以上の事は何も言わず、上半身だけ起こしていたザックスをぎゅっと抱きしめてやる。


「…クラウド…?」


不思議そうに、ザックスが俺の名前を呼び返し、特に何も気にせずに、抱きしめる俺の背中に手を回してくれる。
たった…たったそれだけの行為でも、俺の胸を締め付けるには充分であった。
瞳から生暖かい液体を流し、俺は思わずぽつりと呟く。


「…ザックス…俺、こんなに、弱い奴で…ごめん…ごめんね…っ」


-END-


(…そう言っておいて、明日が来ればまた俺は刃物をザックスに突き付けるんだろうな…)


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