突発ネタ小説

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[春に因んだ拍手小説(ザックラ)]


―春という季節は、決まって途方もない程の眠気が襲ってくるものだ。

「ん…ぅう〜ん…」

…寝苦しいのかどうかは分からないが、唐突にクラウドが小さく呻き、
頻りに布団の中で身体をもぞもぞと動かす。

「……………」

その様子を、
ベッドの端に座って優雅に眺めているのは勿論、
普段からクラウドと同じベッドで眠っているザックスである。


―因みに、クラウドは朝起きるのが遅く、夜は仕事でうんと遅い時間まで起きているという、典型的な夜型人間だ。

だから毎朝、
ふとザックスが目覚める時間にクラウドは見事に熟睡していて本人も知らない内に、
寝顔やら何やらと、色々な意味で見られているという訳である。

「…………」

今度はすぅすぅ安定した寝息を立てて、またしても寝返りを打つクラウド。

それにより、それまでザックスの居る方に背を向け眠っていたクラウドの顔が彼の目前へとやってきた。

「…良く眠ってるよなぁ…」

何て呟きながらも、ザックスの右手はクラウドの頭に置かれ、髪ごとわしゃわしゃと掻き混ぜるようにして撫でている。

…割とその感覚が心地良いのか、特に嫌がるような素振りも見せずに「…ん…」といつもより上擦った声を上げた。

…彼が素面の時は、
同じように頭を撫でてやると、
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして「止めろ」と言われるばかり。

「…可愛い奴め」

こういう時に限っては、抵抗せず素直に頭を撫でられてくれるクラウドに、
ザックスは小さく笑みを零した。

「…あっ」

―暫しの間クラウドの髪を堪能していると突然、ザックスの指からするりと金髪が擦り抜けてゆく。

名残惜しげにザックスが声を上げる。

クラウドがこれで三度目の寝返りを打った為、
またもや彼に背を向ける形になってしまったのだ。

「ちぇっ…」

…まるで、折角飼い猫とじゃれていたのに、ふいに猫が、違う物に気を取られて余所に行ってしまったように、ぽつんと一人、取り残されたような気分になるザックス。

まぁ、いくら彼が不満を漏らそうとも、クラウド自身は全て不本意でやっているので、
文句の付けようがないのだが…

…何て事を考えてる内に、
何やらクラウドが自分の近くにあった抱き枕に腕を伸ばして、ぎゅっと抱き付き始めた。

しかも、今のクラウドは良い夢でも見ているらしく、
表情までは分からないが時折、先程のように上擦った声で小さく笑っている。

「一体、どんな夢を見てるんだか…」

やれやれ、と苦笑いを浮かべながらそう呟くザックスが次に耳にした言葉は実に以外な物だった…



「…んっ、ざ、ザック…スぅ…」



―ほんの一瞬だけではあったが、
確かにクラウドの口から出たのは、彼の隣に居る人物の名前に違いない。


…もしかして、今、クラウドは…俺の夢でも見てるのか…?


必ずしもそうである確証はないけれど、単純思考なザックスは直ぐに期待してしまう。

…否、最早彼にとって重要なのはそれが自分の夢である云々ではなくて、
例えクラウドに自覚がなくても名前を読んでくれたという事にこそ、意味があるのかも知れない。

「く…クラウドぉ…」

案の定、すっかりその気になって浮足立つザックス。


…しかし、舞い上がっていられるのもつかの間の事。

「んぅ…っ…って、
うわぁっ!!!」

急にクラウドが叫び出したかと思えば、いつの間にやら彼は抱き枕ごとベッドから消えたのである。

…要するに、
ベッドから枕ごと落ちたという訳だ。

「え…ちょ…ちょっ、クラウドッ!?」

部屋中にどすんと鈍い音が響き、ザックスが慌ててベッドの上から身を乗り出す。

「…ふぁ…あ、あれ…?」

その衝撃で、流石のクラウドも目を覚まさない筈がない。

しかし起きたのは良いが、何故ベッドの下にいるのかは分かっていないようだ。

「だ…大丈夫か?クラウド…?」

幸い、周囲に物もなくクラウドと一緒に落ちた抱き枕がクッションになり怪我をしたような感じではないものの、
仮にもし、ベッドから落ちた際に誤って頭でも打ったりしたら、彼の記憶なんかが飛んでいったりしないだろうか。

「…え、
大丈夫…って?

…ああ、ひょっとして俺、ベッドから落ちたせいで、こんな所にいるんだね…?」

最初はきょとんとした顔付きでいたが、直ぐに自分が目覚めた場所とザックスの口ぶりで『ベッドから落ちた』と判断する。

「…うん、
とりあえず大丈夫。心配してくれてありがと…」

そう言ってまたのそのそとベッドに上がり、にっこりとザックスに笑顔を向けて無事を伝えた。

「…まぁ、そんだけ喋れりゃあ大丈夫そうだな」

それを聞いてザックスも、ホッと安堵の息を零す。

「それにしても…お前がベッドから落ちるなんて…らしくないよなぁ」

…ザックスの言う通り、昔からクラウドは寝相が悪くなく、ましてやベッドから落下するなど『有り得ない』とまで言われていたのに、
何故か今日は運悪く落ちてしまった。

「…えっ!?えーっと、そ…それは、そのぅ…」

何の気なしに聞いてくるザックスに対して、逆にクラウドはばつが悪そうに言葉を濁す。

「ん〜?」

中々答えないクラウドに向かって、まるで催促するようにこう呟いて首を傾げるザックス。

「き…今日は、い、いつもより…夢の方に意識が、没頭しちゃってて…それで…」

―余程恥ずかしい思いをしたのか、終始もじもじと答えるクラウドを尻目に、

ザックスはザックスで、先程の寝言と今のクラウドの話は繋がりがあるものと、既にに脳内で勝手に変換していたのだ。

「な…何でそんなに嬉しそうな顔してるの…?」

…そうとは露知らず、馬鹿みたいにニヤニヤしているザックスを見るや、
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして訴える。

「ん〜ん!別にぃ〜」
どう考えても、何かあるような口ぶりで、そう言うザックスがクラウドにその旨を教えるのは、
まだ当分先の話である…



 

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