突発ネタ小説

□その手を伸ばして‥
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その手を伸ばして‥

ある晴れた日。少女は太陽に向けて
自身の両腕をうんと伸ばした。
しかし、彼女はもとより袖口が完全に手の平を覆い隠す程長い服を着ていた為、これでは袖の余った部分しか見えない。
少女は静かに袖口をたくし上げ、中から黒い手袋を付けた手が顔を覗かせる。反対の手も同じだ。

暫く、その右手を特に意味もなくじっと眺めていると、ふいに少女の背後から誰か聞き覚えのある声が彼女を呼んでいる。少女はハッとなり、腕を下ろして後ろを振り返る。

「‥良かったー‥急に居なくなっちまうもんだから心配したんだぞー?」

そこには見慣れた赤い服に身を包み、使い込まれた火縄銃を片手に持つ黒髪の少年がいて、少女を見ながら飽きれたように溜息を吐きながら、しかし、実にホッとしたような安堵の表情を浮かべていた。

少年は、彼の制止を聞かずに急に走り出した少女を追ってきたのだ。

「‥そろそろリュウのとこに戻んねーと、夜になったらここら一帯は真っ暗で‥街灯すらねーし女の子が出歩くには危ないんだからな」

ほら、行くぞ!とぶっきらぼうだが手を差し出してくる少年の手を見るや、少女は首を傾げる。

「‥もしかしてダイちゃん、モイが知らない人に襲われないか心配してくれてるの?」

真顔で少年に問いかける少女の一言に少年は一瞬で顔が真っ赤になり、苦し紛れにぱくぱくとたどたどしく口を開いた。

「おま‥ばっ、ちげーよ!!!
ほ、ホラ!今やどこの国も物騒でそこかしこで戦火が上がってる訳だし、
もしそういうのに巻き込まれたりしても‥俺一人ならどうにかなるけど流石にモイまで守れるかどうかは分からねーからだよ!」

分かったか?!と少々強く出る少年が先程熱く語っていた言葉とは裏腹に少女は笑顔でさらりと呟く。

「‥うん、分かった。
とりあえずダイちゃんがモイを心配してくれてるのは分かったけれど、
モイなら大丈夫だよ?」

ほら、と少女は笑顔のままで右手を顔の前まで上げると、手の平の先から突然淡くピンクに輝く蝶がひらりと掌で華麗に舞い踊る。
因みに彼女が今しがた出したこの蝶が場合によって滝のように或はそれを畝らせ波のように大量に出して襲いかかる人間の二人くらいまでなら同時に動きを止める事が出来るのを少年も知っている。それでも尚、
‥否、だからこそ、余計に。

「だーかーらっ!!
大丈夫じゃねーから言ってるんだろっ?!力があるとか無いとかそれ以前に、モイは女の子なんだぞっ!
それに‥モイのその力はこの国以外でも珍しくって‥狙ってる奴らだっているんだぜ!?」

「それに‥それに‥」

「‥?」

またまた首を傾げる少女を尻目に、少年は急に少女の両手をぎゅっと握って顔の前で制止させる。

「‥モイは‥
俺にとって‥大切な人だから‥だから‥俺が守らねーと‥
モイは良く、俺の事を守ろうとしてくれるけど‥俺は好きな人に守られるよりも守る方が良い‥」

ーだから、お願い。
モイを‥俺に守らせてー?

少女は小さくニコっと笑うと、
‥分かってるよ。と言葉を返した。

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