ぽけ&すぺ

□さよなら。もう二度と触れさせない。
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(※死ネタ)




…最初に言っておく。この行為に深い意味なんてねェんだ。




「…一体、何の真似だい?ゴールド」



「…悪いっスけど、
ワタルさんにはここで死んで貰います」






今の君のセリフ、冗談にしてはあまり面白くないな。と、軽く鼻で笑われた。


一応、本気だったんだけどな…まぁ、んな事は別にどうだっていいや…



手にした刃物をワタルさんの首筋に強引に突き立てる。


少し刺さったみたい…ていうか、刺した。からうっすらと血が滲み出ている。



「…正気かい?ゴールド」

再び嘲笑わらんばかりの言葉を浴びせられた。


…そりゃ、勿論…


「…正気っスよ。
じゃなけりゃこんな事しませんって」



…あ、その刃物って奴は、俗にカッターと呼ばれる文房具…の詰め替え用の替え刃だ。


因みに右手の指と指の間に(計4本)挟んでる状態だから、自分も怪我したくないっつー良い子は、真似しない方がいいぜ。




本当の所、早く殺してしまいたい所だが、…俺は知ってる。


…ただやみくもに殺したんじゃあ、俺の弱みを利用されて一緒にオシマイだな…

だから、道連れなんてさせてたまるかってんだ



「…もう気づいたみたいだね」



そう言うとワタルさんは、奥に見えるガラス張りの部屋を指差す。



その奥で、すやすやと気持ち良さそうに眠るアイツ―…基、シルバー。


…悪趣味だぜ…

俺は…シルバーにだけは…誰かを殺す所なんて…死んでも見られたくねぇ

増してやその相手が、シルバーの恋人ときちゃあ尚更。

…そんな俺の弱みを逆手に取り、俺が殺しに来る事を見越してわざわざシルバーを俺の目に付く場所で寝かせてるんだ…


『君が僕を殺そうとすれば、シルバー君を起こす』


―そう、それこそが、俺を止める最終手段…



俺は、カッターをさっきより深く首に押し付けた。



「…だとしたら、
起こされる前に…今すぐ殺すしかないじゃないっスか」



…そう、ワタルさんも知っている。





さっきまでは自分の血の臭いしかしなかったが、ワタルさんの血の臭いも混ざって、良く分からない事になった。




今のワタルさんは、まるで酸素を欲しがる魚のようで。


空気が抜けていくような音が聞こえてくる。





まぁ、それが殺すっつー事だし、普通なら苦しくない訳ないだろ。




「…っはっ…はー…
ゴー、ルド…そもそ…も、俺を…殺し…て…どう…する…つもり…な…んだい…?」




そう言われ、俺はいかにも作り物と言わんばかりの笑顔を纏って、言ってやった。




「…理由…スか。
そうっスね…まぁ、色々かい摘まんで言えば、ワタルさんが居ると…邪魔だから…っスよ」


「…ハ、ハッ…俺が…邪魔者…とは…こりゃ…随分…な言わ…れようも…された…もん…だな…」




ワタルさん、そんな青ざめた顔で余裕ぶった事言ったって、全然余裕に見えないっスよ。




…そろそろ、終わりにしましょうや


「…ワタルさん、最後に何か言い残したい事あるっスか?」



そう聞けば、今だに余裕な態度でうー…ん、そう…だなぁ…なんて返してきた。



…この人、本当に殺されるって分かってんのかなぁ…


そこまで冷静を装われると、こっちの調子が先に狂わされそうになる…ていうか、殺されかけてるのに余裕なふりするその態度が信じられねぇ…




「…早くしてくれないと、言い残す前に殺しちゃいますよ?」



…まぁ…こう言っちゃあ…逆恨みってヤツなんだろうが…ワタルさんとシルバーが付き合い始めてから、ずっと気に食わなかった。

…あの余裕ぶった態度が

…あの冷静さが

…そう、これは殆どが自己満足なんだと思う。


「…っ…あー、分か…った…、じゃあ…一つ…だけ言わ…せ…て貰うよ…」



そう言って、ワタルは俺に言った。



「…そも…そも、俺を…殺し…た…所で、彼は…シルバーは…君を本当に…手に…入るとでも…?」





…何だ、最後なんだし、もっとマシな事言い残すのかと思ってたぜ。


…理由…そう、俺はシルバーが好きなんだよ。

好きで好きで好きで仕方なくて、俺以外の奴に取られるのが嫌なんスよ。

…でも、それは…結果的に俺の元から離れちまった。んで、今はこうしてワタルさんの元で幸せそうにしてるし…それが何か悔しくて…


…だから俺は、これ以上ワタルさんにシルバーを触れられたくない、ただそれだけだけど、だから殺すんスよ。
―でも、悪く思わないで下さいよ?

シルバーが好きなのは、お互い様なんスから…


そう吐き捨て、右手を後ろに引き、再び首筋目掛けて豪快に振り下ろした。






「…さよなら、ワタルさん」


静とした部屋に、血生臭い臭いだけが充満して、吐き気がしてきた。



シルバーは、愛する人が死んだ事も知らないから、相変わらず幸せそうな寝顔を見せていた。




―END―




(ゴメンな、シルバー。
俺は、お前が知ってる俺より…ドス黒く染まっちまったみてーだな…)

 

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