ぽけ&すぺ
□偽りの身体に、愛情は無い。
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(※死ネタ&流血表現)
今日未明。今日この時間を以て、俺の恋人だったゴールドは消え去った。
代わりに、俺が"恋人"と認識しかねるゴールドが俺の前に現れた。
そいつは、遠くから見れば本人と間違えそうなくらい良く似た人物だが、所詮、偽物は偽物。
俺が大好きだった、―ちょっと乱暴で荒んだ言葉も、いつも呑気に笑う声も、キューを自在に扱う器用さも、心安らぐ太陽のような笑顔も、ずっと憧れてた金色の、凛とした瞳も、もうない。
今ここにいるゴールドは、成績も優秀な優等生で、キューは一切扱えないし、誰に対しても敬語を使うし、ポケモン捕獲に長けてるし、何より、金色の瞳はなく、髪と同じ少し青みがかった黒のような色をした瞳がある。
…本当は、自分でも薄々感づいてはいたんだ。これがゴールドではないという事くらい。
ただ、ゴールドはもう居ない。なんて、絶対に考えたくない。だから、俺はゴールドに良く似た人物、クリスに溺れ掛けている。
クリスは、最初は俺を慰めたり、この行き場の無い感情を受け止めたりしてくれる。
ほんの些細な事から始まった。
時が過ぎ、いつしか俺の中では、恋人が居なくなってしまった後悔、悔しさ、悲しみや怒り等が更に溢れ、もう今のような状態でいる事は"不可能"だという結論を出した。
―その考えが、クリスを"ゴールド"に似た存在へと変えてしまった。
「あ、シルバー!!」
今日もクリスは、ゴールドの衣服、帽子、ゴーグル、キューを着て、俺の為に"姿だけのゴールド"を演じてくれた。
「久しぶりねっ!!元気にしてた?」
「…クリス、頼むから…ゴールドの時に女言葉使うのは止めてくれ…」
…思わず口にしてしまったのがこの言葉。
…いや、クリスは女だから、女言葉使うのは自然だ。
でも、俺はクリスの事は、恐らく見えていない。
そこにゴールドを重ねて、結局、クリスはクリスでしかないんだと思い知らされる。
…当たり前の事だが、所詮クリスとゴールドは違う。だから、代わりになんてなる訳もない…
「…ゴールド」
…嗚呼、特にクリスが俺に優しいせいで、俺は今以上の物を求める贅沢な考えばかり生まれてくる。
「…ゴールド」
…すまない、クリス。ねぇさん。先輩方。後輩達。それに…父さん。
「…俺の為に色々してくれた事、感謝する。
…でも、それももう無理そうだ…」
―自宅の、暗い部屋の片隅。
手にした刃物を手首に押し付け、力任せに引き抜く。
「…ゴールド」
最期まで呟いたのは、俺の愛した人の名。
これで、俺もお前にようやく会え―…
「…シルバー?」
…クリスが、俺の部屋に入ってしまったようだ。
…血塗れの俺の手首を見た。見られたくなかったのに…
遠退く意識の中、赤く染まりゆく部屋に、クリスの悲鳴が虚しく響いた。
「いやぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁっ!!!!!」
―END―