ぽけ&すぺ
□シルバー=ゴールド。
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人気のなくなった、小さな家。
ドアは錆びれて外れ、開いたまま。鍵穴も潰れて鍵が掛からない。
窓は割れ、辺りにその破片が散らばっている。
中に入ると、重苦しい空気が流れていた。
セピア色の視界に、血の臭い。
先へ進もうとする足が重い。
―本当に、こんな所にあいつは暮らしているのだろうか…
台所は、無惨な姿に変わり果てていた。
二階へ行く為の階段も、何箇所か板が腐って抜け落ちている。だが、端を使えば何とか上れそうだ。
俺が階段に片足を掛けると、階段の板は悲痛な叫びを上げ、変に力を入れたら直ぐにでも壊れそうだ。
…途中、何箇所か壊してしまったが、とりあえず無事に上がってこられた。
…こんな時こそ、ポケモンを使って上に上がれれば良かったのだが、生憎、これは夢…いや、現実でも夢でもある此処では、ある程度の行動は制限されている。
それ故に、ポケモンは手元にはいない事になっていた。
…まぁ、詳しい事はそのうち分かるさ。
…さて、一階には居ないのは分かった。後は、この階のこの部屋だけだ…
俺は、玄関とは違い、綺麗なままのドアに手をかけ、静かに開けた。
*********
「…一足遅かったか…」
二階にある部屋、それは、あいつ、ゴールドの部屋。
部屋中に、錆びた血の臭いが充満していた。ずっと嗅いでいたら吐きそうだ。
床には、血のような赤いモノがこびりついてしまっている。
「…ゴールド、生きてるか?」
あいつは、何も言わずにベッドに横たわっている。
一応、息はしているようだ。
「…シ、シルバー…?」
数秒間があったが、ゴールドは俺と目が合った後、確かに俺の名前を呼んでいた。
「…ホラ、行くぞ」
そして、手を差し延べる。
それを見たゴールドが、手を伸ばし、俺の手を握ろうとした。が、途中で何を躊躇ったのか出しかけた手を引っ込めてしまった。
「…ごめん…やっぱ…出来ない…」
乾いて切れて血の滴る唇から、零れた言葉は、俺を拒絶する返事だった。
虚ろなゴールドの目からは、塩辛い水滴が溢れていた。
「何言ってんだ、こんな所に居たらじきに死ぬぞ?」
―お前が俺の手を返すなら、俺はお前を是が非でも此処から引きずり出してやる。
そう言い放ち、半ば強引にゴールドの腕を掴み、ベッドから起こし、外まで引っぱろうとした。
奴の顔が、痛みで一瞬強張った事なんて気にも留めない。
…しかし、またも俺の手は弾かれ、ゴールドは首を左右に振るばかり。
「…何で、お前は俺を拒む?」
こんな展開、納得出来る訳がない。
…なぁ、教えてくれよ。
何で…
「…だって…俺…守れなかった…
…シルバー以外の奴とは付き合わないっ…て…約束したのに…っ!!守らなかったんだ…っ!!」
…馬鹿…もしかしてゴールドの奴。こんな約束が守れなかったから死にかけてるのか…本当に…
「…ゴールド、一つ、忘れてないか…?」
「…え…?」
奴の涙のせいで、つられて俺の視界までぐにゃぐにゃしてきた。…嗚呼、頭が痛い。
「…お前…死んだら、それこそ大切な約束を破る事になるんだぞ…っ!!」
頭が痛くて、上手く考えがまとまらない。
どうしようもなくなった俺は、ゴールドの隣に、同じように、ベッドに座り込んだ。
「…約束…しただろう…?」
俺は、ゴールドを抱きしめ、静かに涙を流す奴の耳元で囁いた。
「…俺の事…絶対に…守るって…言ってただろう…?」
…俺以外の他の女と付き合うなとか、そんな詰まらない約束はどうでも良いんだ。
俺は、俺には、ゴールドが…奴が俺の隣で、生きていてくれる…それだけで良いんだ…。
「…ホラ、来いよ…?」
俺は、抱きしめていて手が差し出せないので、代わりに静かに呟いた。
ゴールドは、俺の背中に自分の腕を回し、額にそっと口づけ、頷いた後、小さな笑顔を浮かべた。
(…錆びれたのは、家だけじゃない。ゴールドも錆びれてしまったんだな…)
(…俺の夢の中は絶望的だぜ…シルバーが来る前まではな…)
―END―