ぽけ&すぺ

□シルバー=ゴールド。
1ページ/1ページ






人気のなくなった、小さな家。




ドアは錆びれて外れ、開いたまま。鍵穴も潰れて鍵が掛からない。




窓は割れ、辺りにその破片が散らばっている。




中に入ると、重苦しい空気が流れていた。
セピア色の視界に、血の臭い。




先へ進もうとする足が重い。




―本当に、こんな所にあいつは暮らしているのだろうか…




台所は、無惨な姿に変わり果てていた。
二階へ行く為の階段も、何箇所か板が腐って抜け落ちている。だが、端を使えば何とか上れそうだ。




俺が階段に片足を掛けると、階段の板は悲痛な叫びを上げ、変に力を入れたら直ぐにでも壊れそうだ。




…途中、何箇所か壊してしまったが、とりあえず無事に上がってこられた。




…こんな時こそ、ポケモンを使って上に上がれれば良かったのだが、生憎、これは夢…いや、現実でも夢でもある此処では、ある程度の行動は制限されている。
それ故に、ポケモンは手元にはいない事になっていた。




…まぁ、詳しい事はそのうち分かるさ。




…さて、一階には居ないのは分かった。後は、この階のこの部屋だけだ…




俺は、玄関とは違い、綺麗なままのドアに手をかけ、静かに開けた。





*********




「…一足遅かったか…」




二階にある部屋、それは、あいつ、ゴールドの部屋。




部屋中に、錆びた血の臭いが充満していた。ずっと嗅いでいたら吐きそうだ。




床には、血のような赤いモノがこびりついてしまっている。




「…ゴールド、生きてるか?」




あいつは、何も言わずにベッドに横たわっている。
一応、息はしているようだ。




「…シ、シルバー…?」




数秒間があったが、ゴールドは俺と目が合った後、確かに俺の名前を呼んでいた。




「…ホラ、行くぞ」




そして、手を差し延べる。
それを見たゴールドが、手を伸ばし、俺の手を握ろうとした。が、途中で何を躊躇ったのか出しかけた手を引っ込めてしまった。




「…ごめん…やっぱ…出来ない…」




乾いて切れて血の滴る唇から、零れた言葉は、俺を拒絶する返事だった。




虚ろなゴールドの目からは、塩辛い水滴が溢れていた。




「何言ってんだ、こんな所に居たらじきに死ぬぞ?」




―お前が俺の手を返すなら、俺はお前を是が非でも此処から引きずり出してやる。




そう言い放ち、半ば強引にゴールドの腕を掴み、ベッドから起こし、外まで引っぱろうとした。




奴の顔が、痛みで一瞬強張った事なんて気にも留めない。




…しかし、またも俺の手は弾かれ、ゴールドは首を左右に振るばかり。




「…何で、お前は俺を拒む?」




こんな展開、納得出来る訳がない。




…なぁ、教えてくれよ。


何で…


「…だって…俺…守れなかった…
…シルバー以外の奴とは付き合わないっ…て…約束したのに…っ!!守らなかったんだ…っ!!」




…馬鹿…もしかしてゴールドの奴。こんな約束が守れなかったから死にかけてるのか…本当に…




「…ゴールド、一つ、忘れてないか…?」




「…え…?」




奴の涙のせいで、つられて俺の視界までぐにゃぐにゃしてきた。…嗚呼、頭が痛い。




「…お前…死んだら、それこそ大切な約束を破る事になるんだぞ…っ!!」




頭が痛くて、上手く考えがまとまらない。
どうしようもなくなった俺は、ゴールドの隣に、同じように、ベッドに座り込んだ。




「…約束…しただろう…?」




俺は、ゴールドを抱きしめ、静かに涙を流す奴の耳元で囁いた。




「…俺の事…絶対に…守るって…言ってただろう…?」




…俺以外の他の女と付き合うなとか、そんな詰まらない約束はどうでも良いんだ。

俺は、俺には、ゴールドが…奴が俺の隣で、生きていてくれる…それだけで良いんだ…。




「…ホラ、来いよ…?」




俺は、抱きしめていて手が差し出せないので、代わりに静かに呟いた。




ゴールドは、俺の背中に自分の腕を回し、額にそっと口づけ、頷いた後、小さな笑顔を浮かべた。




(…錆びれたのは、家だけじゃない。ゴールドも錆びれてしまったんだな…)


(…俺の夢の中は絶望的だぜ…シルバーが来る前まではな…)


―END―
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ