ぽけ&すぺ

□…よしよし、
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(※相変わらずの捏造っぷり注意!)


「…N、頼むからあんまり俺にベタベタすんな」

旅の途中で出会った謎の電波青年に突然―ぎゅうっと抱きつかれ、そのせいで足がもつれて上手く歩けなくなってしまった気の毒な少年ブラック。

誰が聞いても、あからさまに苛立ちを孕んだ口調で鬱陶しそうに抵抗しながらぶつぶつと非難の声を上げるブラックとは裏腹に、
青年―Nは至って涼しげな顔色一つ崩さずに彼の顔を見やりフッ…と余裕じみた意地の悪い笑みを浮かべていた。

「嫌だ、とでも言ったら…どうするつもりだい?」

そう耳元で囁くと、ただでさえ進路を妨害された為に、迷惑していたブラックの怒りのボルテージは急上昇。そんなブラックの余裕のない様子を見てくすりと小さく笑うNにまた言い知れぬ感情が渦巻く。

あくまでもNには悟られぬよう、なるべく単調な言葉だけを並べて答える。

「…別に。
そっちがその気なら、俺は力ずくでその腕を引き剥がすだけだ」

「相変わらずキミはつれない事を言うんだね…ボク個人の意見としては、実に残念で仕方がないよ」


…何が残念だ。

そんな考えがブラックの頭を過ぎる。まあ、それもその筈で現にNは未だ顔色一つ変えては
いないのだから。

「…それより、
わざわざこんな道端で俺に抱きついたりなんかして…一体、何が狙いなんだ?」

否―ぶっちゃけ改めて聞かずともコイツの目的なんて決まっている。

どうせまた俺のポケモン達の声を聞かせろだとか、或いは俺をプラズマ団に引き入れようとか…その程度の用だろと彼は小さく溜息を吐いた。

どちらにしろ、
ブラックにとっては似たような物―詰まりは面倒で厄介な事でしかない。

次の瞬間…如何にも鷹を括っているブラックに降りかかった言葉は、
そのどちらでもなかったのだから酷く狼狽する。

「ううん…違うよ、
今日此処に来たキミに抱きついたのは、キミに『頼みたい事』があるからなんだけれど…」

「…いや、
それはそれでまた嫌な予感がするんだけどさ…」

―大体、会っていきなり抱きついて頼みたい事って、どんな事なんだ?

包容か?キスか?はたまたそれ以外の―…ああもう!やっぱロクな選択肢がないじゃねーか!


…益々訳がわからなくなって頭もぐちゃぐちゃにかき乱されてちっともサッパリしない内に、あくまでNは淡々と言葉を続ける。

「そうだなあ…一応、キミがボクの事をどう思っているのかが知りたいな。まあ…そんな訳だからとりあえず、キミはボクの事を好きかい?」

「…さらりととんでもねー事聞きやがったなオイ」

明らかに引いたらしく後退りするブラックを見ても、Nはこの通り素面のままである。

「ハハッ、何をそんなに慌てる事があるんだい?

…さあ、ボクの質問にちゃんと答えてよ」


―どうやら、あまり考える時間を与えるつもりはないと見える。これには流石のブラックも僅かながら動揺せざるを得ない。

「意外にせっかちな発言だな…」

「仕方ないよ…だってボクは、キミがこの質問にどう返事を返してくるのか、
そんな事ばかり考えていたら、いつの間にか夜が明けてしまったんだから」

「つーか…寝れなくなる程そんな事ばっか考え込んでたのか、あんた」

―恐るべし電波青年、これはもしもここでブラックが変な事をうっかり喋ろうものなら…多分、これからは嫌という程Nが付き纏ってくるに違いない。所謂ストーカー的なアレである。

だからこそ慎重に考えたい所だが、生憎Nは普段から一方的な性格故に、あまりダラダラと答えられずにいたら勝手に『肯定』『イエス』の意味と取りかねない。

少しだけ考えた末に、ブラックはぽつりと呟いた。

「まあ…どっちかと言えば、嫌いの方かな」

「そっか…」

思いの外、あっさりと『嫌い』という言葉を受け入れたNに寧ろブラックが面食らった。

いくら何でも流石にストレート過ぎる言葉だと思い直すも、時既に遅し。一度口をついて出てしまった言葉は訂正が利かないから厄介である。

…もしかして、
気にしていない振りをしていて内心はメチャクチャ傷付いたりしてやいないか。と一人ドキマギするブラックを尻目にそれでもNは平然とした顔でこう述べる。

「…まあ良いさ、
今日の段階じゃあまだボクはまだ嫌われてると予想はしていたからね。そこまで気落ちする事ではないよ」

「…何だ、あんた俺が嫌ってると知った上でわざわざあんな事聞いたのかよ?」

―分かってたなら、
どうして最初からこんな無意味な質問するんだか…

なんて…ツッコミたくなる気持ちを押さえて最初に浮かんできた疑問だけを口にすると、何故だかNは微かに笑った。

「…どうしてだろうね?
そう言われて見れば、ボクにも良くわからないや。

…きっと、ただ単純にキミに嫌われてるという事実を認めたくなかっただけなんじゃないかな…?」

やけに客観的な物言いに、ブラックは少しだけ
、本当は先程の答えに少なからずNが傷付いたのだと察した。

別に『嫌い』とは言えど、それは若干大袈裟な言い回しであり、実際はそこまで嫌いな訳でもない。
確かに好きとも言えないが、今のように唐突に抱きしめられたり好きかどうかを聞かれるのも…割と悪くないかも知れない。と自負するブラック。

…結局の所は、敵同士だから嫌いになっても仕方がない筈なのに嫌いにはなれないという複雑な心境。

「…まあ、とにかく、
今はまだあんたの事は『嫌い』って事になるけど…そんなに落ち込むなよ?」

―そう呟きながら今だ離れないNの頭に右手を置き、彼はまるで猫か何かにするようにぐりぐりと撫でる。

「…とりあえず、
あんたの純粋で率直なその気持ちだけは、俺も嫌いじゃねーよ」

「あ、あとこうやってNの髪の毛をわしゃわしゃ撫でるのは好きだな。うん」

…という宣言にもある通り、放っておけばいつまでも気持良さそうに撫で続けるブラックの様子に、Nは初めていつものような貼り付けの笑みではなく至って何の屈託もない笑顔で笑いながらも呟いた。

「…本当に、
キミは変わった人だよ…」


 

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