ぽけ&すぺ

□甘い物好きには定番の、
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「…あ、」

まさか、と思った。
―痛い。痛いのである。

…流石に最近、調子に乗って甘い物ばかり食べていたから、ついにその見返りがきたのかも知れない。

「……………」


―あの感覚、
まるで歯の神経をも抉るような鋭い痛み。これは紛れもなく『虫歯』だろう。

…これはいよいよ潮時か、しかしこのまま放っておいたら最後、当面の間は満足にご飯はおろか好物の甘い物すらお預けになる。

「…………………」

だが、よりにもよって丁度パフェを食べようとした矢先に突然痛み出すなんてタチが悪い。せめて一口でも食べた後だったらどんなに良かった事か。

(い…いくら虫歯とは言え、流石に一口も食べないまま終わるというのも…)

…幸い、今この家にいるのは俺だけだから、奴(ゴールド)に知られる可能性は至って低い筈。

虫歯が発覚してしまった以上、これを全て平らげるのは普通に考えても難しいだろうから、とりあえず今スプーンで掬った分だけでも何とか胃袋に収めたいのだが…どうだろう。

(…だが良く考えてみろ、
これを口に入れればまたアノ痛みが蘇るに決まってるじゃないか…)

先程と同じくらいの衝撃が走る痛みが襲ってくるのなら、やはり躊躇してしまう。

食べられないのも嫌だが、かと言って痛い思いをしながら無理やりに食べるのも出来れば遠慮したい。

(…ついでに、歯医者に行くのも遠慮したい所だ…)

残念ながら、これだけ散々甘い物を食べてきた癖に実は虫歯なんて…今の今までなった事がなかったのだ。それ故に、歯医者の世話になった事もない。

だけど…ブルー姉さん曰わく「メチャクチャ痛い」上にあんまり進行していると「何度も通う羽目になる」…らしい。

「………………」

まあ…仕方ない。このままずっと葛藤し続けても何の解決にもならないので、暫くコイツ
はお預けにしよう。


*********


―あれから色々悩んだ末にたどり着いたのは歯医者…ではなくオーキド研究所。

何だかいきなり行くのは個人的に心許ないと思い、先ずは俺の知り合い(姉さん以外)で歯医者に行った事のある人を尋ねて、その全貌を暴く(…という名目の現実逃避)という寸法だ。

「…えっ?虫歯?」

―そう復唱するや、先程まで室内の資料を整理していた彼女の手が止まる。

彼女―基クリスは、突然俺が腰掛けていた椅子に近付いて急に神妙な顔つきで俺の肩を掴んできた。

「シルバー、あなた…虫歯なのッ?!ならこんな所に来る前に歯医者に行かなきゃ駄目じゃない!!」

―そもそも虫歯って言うのはね、早い内に気付いて治療すれば何て事ないものなのに…

…と、俺の予想以上に虫歯について力説してくるのだから何だか益々重篤な症状な気がして歯医者に行かなければという気が薄れてしまう。

「い…いや、
実は虫歯と言っても…俺じゃなくて、本当は俺の知り合いが…虫歯らしくて、な…」

…嗚呼、我ながら何て苦しい言い訳だろうか!

でもこの段階でこうでも言っておかなければ、否応なしに間違いなくクリスに歯医者まで連行される!


「…ああ、なーんだ!
別にあなたが虫歯な訳じゃないのね?」

―ごめんなさいね、私てっきりあなたが虫歯になっちゃったのかと思ったわ!

といいながらクスクス笑うクリス。

まあ…ひとまずはこれで納得されたのだろう。
後は今のが嘘だと悟られないよう適当に話を合わせて情報を収集するのみ。

「た…確かに虫歯は誰もがなる可能性があるらしいからな…俺がなったと思われても、当然だろうな…」

「ふふっ、それにあなたは甘い物が好きだったし…余計に誤解され易いのは仕方のない事よね!

…あ、でもでも、虫歯が誰もが皆なるって
いうのは『盲言』らしいわ。
そもそも虫歯になる原因だと言われている『ミュータンス菌』っていうのはね、人間が赤ちゃんの内は一匹もいないみたいで、その菌を持っている人と接触すると途端に虫歯が出来る…とか言ってたかしら?」

…などと得意げにペラベラと語るクリスには申し訳ないが、俺にはまだついていけそうにない次元の話である…

「く…詳しいんだな…」

「えへっ本当はコレ、テレビでたまたま聞いた事の受け売りなんだけれどね」

「成程…」

…道理で随分と踏み込んだ話だとは思ったが、やはりそういうオチなのか…


「…まあ、
それはさておき。シルバー。あなたがその知り合いに頼まれたか何かで『虫歯』の事を調べているのなら、これだけは言っておくわ。

…確かに歯医者で治療して貰うのは痛いけれど、だからと言っていつまでもそのままにしておいたら、いずれ虫歯は表面だけじゃなく奥深くにまで到達して…

…歯の神経まで進行すれば、今までの痛みとはまるで比べものにならない程の激痛が襲ってくるし、最悪の場合…神経を取る事になるわ」

「げ…激痛…」

―激痛と聞いただけで、思わずそれを想像してしまった…まだそこまで痛くなかった筈なの
に、想像しただけで口の奥がズキズキする…

「…まあ、早い内に歯医者に行けばそんな事にはならないから安心して」



…クリスはにっこりと笑顔でそうさらりと言った。



おまけ

「ただいまー、
って…あり?シルバー何してんの?そんなにお守り沢山用意したりしてさ」

「べ…別にっ!は…歯医者が怖いだとか虫歯が進行して神経を取るのが怖いとか…そんな事は全くないんだからなっっ(泣)!!!」

「…いやいや、フツーに歯医者行こうぜ?(汗)」



 

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