ぽけ&すぺ
□近寄らないで、移るから…
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(※只のウイルスネタ…)
「近寄らないで」
―そうキッパリと吐き捨てるように言われ、程なくして彼女は自室に籠もり切りになってしまった。
*********
「…うーん…」
トウコが部屋に籠もり、ついに居間で一人ぽっちになってしまったNがソファに座りながらも腕を組み、眉を潜めて如何にも真剣に頭を働かせているかのような仕草を見せる。
「…―駄目だ、
あれこれ色々考えてはみたものの…どれもトウコを怒らせる程の影響力なんて、無いはずなのに…」
…どうやらNは、先程の一言でトウコが自分に対して腹を立てていて、最早顔さえも見たくないくらいに怒っているから自室に行ってしまったのだと解釈したららしい。
今まで思い出せる範囲内で、彼女と会っている時の自分の行いを振り返ってはみたものの、それでも、トウコの不機嫌の理由が分からなかった…
いくら何でも『数式』だけで人の心理までもを図ろうとするNが、頭以外の器官で物事を考えるのは…流石に苦手だ。
「…もしかして、
ボクが知らず知らずの内にトウコを傷つけるような事をしてた…のかなぁ…?」
―やがて、たどり着いた結論は『無自覚に彼女を怒らせたまま、それに気付こうとしなかったから一人にされたんだ』という事。
「…参ったなぁ、
もしも本当にこの仮説が答えなのだとしたら…ボクは一体、どんな顔をしてトウコに頭を下げれば良いんだろう…?」
当たり前だが…何が原因かも分かりもしない内から早々に謝った所で、かえって逆効果なのは経験的にNも理解している。
「でも…出来る事なら、
早く謝って、許して貰いたいな。だって…ボクは…」
―言ってから、小さく溜息を吐いてがっくりとうなだれる。
「…このままだと、寂しさのあまり涙が出そうだよ…トウコぉ…」
確かに今の彼は、
他に誰も居ない居間で一人ぼっちだ。そう―本当の意味で『誰もいない』。
「……………」
先程まで一人葛藤して悶絶していたNでさえ、ようやくこの異変に気がついた。
「…そういえば、今日はやけに静かだなぁ…」
Nがブツブツと喋るのを止めた途端、何の音も聞こえない静寂が訪れた。
少し考えてみた所で、こちらの方は見当がついたらしい。「…ああ!」と頓狂な声を上げながらも手をポンと叩く。
「そうか…分かったぞ!
今、この場にいないのは、トウコだけじゃあ…なかったんだ…!」
ようやく、彼女の他にもどうにかしなくてはならない原因が判明した所で、先ずは理由がハッキリしている方から解決しようとソファを立って、居間の中をあちこち物色し始めた。
「…おーい、マメパトー?チョロネコー?」
「………………」
「ゾロアーク?ギギギアルー?」
「……………」
「…ゼクロムー?いないのかい?」
棚の上、テーブルの上下に部屋の四隅、家具と家具の隙間と床に乱雑に置かれたクッションの下まで呼びかけながら詮索してみるが、案の定、何の変化もない。
「…困ったな、
ボクのトモダチ達までいなくなるなんて…一体、何があったと言うんだ…?」
少なくともトウコは、居場所だけなら分かっているので良からぬ事態に巻き込まれている可能性はないだろうが、Nの手持ちポケモンの入ったボールがないという事実がある以上は、何か良くない気がしてきてならないのだ。
「いや…待てよ、
もしかしたら皆…居間にはいないだけで他の部屋も探してみれば、案外、いるかもしれないよね…?」
―そうだ。きっとそうなのかも知れない!そう考えたNが早速居間を出て廊下を物色しながら歩いていると、ふいに奥から何かの影がユラユラとこちらに近づいて来るのが見えた。
「…あれ、誰か来る?」
そう考えた矢先…もしもその相手が実はトウコだった場合、今鉢合わせしたって合わせる顔がない!と必要以上に慌てふためくN。
…しかし、その姿がハッキリと見えた瞬間。Nは面食らったように目を疑った。
「あれ…キミはもしかして、ゾロアークかい?」
―それは確かに、
彼が正に今探していた筈の一匹のゾロアークである。しかもその手には、水がたっぷりと入った桶を持っていたのだ。
*********
「…いや、驚いたよ。
まさかボクのトモダチが、揃ってトウコの部屋にいただなんて」
…あれからNは、
台所で用事を済ませたゾロアークに連れられて、そのまま流れで不本意ながらにトウコの部屋に入ってしまった。
そうしたら、てっきり「何勝手に入って来てるのよ!」とでも文句を言われるのかと思いきや、トウコは無言で布団にくるまったままだった。それもその筈。
何しろ彼女は、軽い熱を出してしまったようで、頬を紅潮させながら肩で息をしているような状態で、
先程水を換えてきたゾロアークが絞ったタオルをくるくる丸めてちょこんと額に乗せてやるとトウコが苦し紛れに笑う。
「ありがと…ゾロアーク」
「がうっ!」
トウコの感謝が伝わったのか、ゾロアークは満足そうに一鳴きする。
―その様子を客観的に眺めていたNは、ふいに何かと何かが繋がったような気分になった。そうか…
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「…もしかして、
ボクに「近寄らないで」って言ったのって…」
「…だって…何も知らないNに近づいて、私の風邪が移ったりでもしたら…あなたに悪いじゃないの…」
「…と…トウコぉ〜!!
やっぱりキミは…優しい子だったんだねぇ〜!!」
「うわっ、
ちょっ…分かったから!とりあえず抱きつくのだけは勘弁して!本当に移っちゃうわよっ!?」
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