ぽけ&すぺ

□隔*絶
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(※CP色薄め&学パロ鬱ネタ)


―静まり返った下駄箱。

沢山の色や形の靴達が所狭しと並び、その棚の数は、なんと六面にも及ぶ。

人がいる気配のしない下駄箱の周囲をグルグルと何度も回りながら浅い溜息を吐く少年は、間違いなく何やら探しているというのが良く分かる。

「うん…駄目だ。全然分かんね。」

少年―基、キョウヘイが、もうお手上げ状態だと言わんばかりに手をヒラヒラさせる。

その様子を、彼の直ぐ背後で実に愉しそうにクスクスと笑いながら偉そうに壁に寄りかかる女子達。


「えーっ、ホントに分かんないのぉ?」

「それってちょーヤバいよねぇー?」

「キョウヘイ君ってぇー、意外に根性ナシぃ?みたいなぁー?」

「それ言えてるぅ〜!」

「ギャハハハハハッ!!」


まるで、男に媚びを売っているような猫なで声と可愛いらしくブリッ子を演じる彼女達の会話から、誰がどう見ても、これは一種の『イジメ』と判断しても過失にはならないだろう。

キョウヘイは、先程から馬鹿みたいに下品な声を張り上げるように笑い狂う女子達を死んだ魚に似た目でつまらなさそうにじっと見つめている。


(…ったく、いつもいつも七面倒臭い連中だよな…)


ひとしきり笑った事で、漸く満足したらしく彼女達の笑いが収まっていく。
それによって、彼女達の中でもリーダー格だと思われる一人が何やら閃いたように手をポンと叩いた。

「じゃあねぇ…仕方がないからぁ、ヒントくらいなら、出してあげても良いよぉー?」

「あっそ。なら、
さっさとそのヒントとやら言ってみろよ」

キョウヘイがやれやれと肩を竦めながらそう吐き捨てると、彼女達はまたクスクスと笑い始める。


「ヒントはねぇ―…
この下駄箱よりもずぅーっとあっちの方にぃ、あるかも知れないよぉー?」

「………………」

ー全く、何が「下駄箱よりずっとあっちの方」だ。

今まで散々下駄箱の辺りを探していたあの時間は、ただの無駄足に過ぎなかったというオチか。

…やってらんねぇや、
仕方ねぇ。本当は不本意だが、いっそこのまま校舎内を歩いていたボロボロの上履きを履いたまま家まで帰ってやろうかな…?



ー何て事をぼんやりと頭の片隅で考えていると、急に彼女達の面子の一人が「あっ!」と声を上げてある一点の方角を指差す。

「ヤバっ、
誰かこっちに来るみたい!」

「いいから!ホラ!早くこの場からズラかるよっ!!」

「あっ!ちょっ…ま、待って下さいよ先パーイ!」


「………………」

…どうやら、自分達の姿が他人に見られそうになったら一目散にしっぽ巻いて逃げる連中だったらしい。

誰が向って来ているかは知らないが、ともあれ助かった。とキョウヘイはほっと安堵の息を漏らす。

「おい」

…暫くすると、例の誰かさんがキョウヘイの背後までたどり着いたらしい。そいつは下駄箱の前で呆然と立ち尽くす彼に声を掛けながらもポン、と肩に手を掛ける。

「…何だ。ヤツらが言ってた誰かって…ヒュウの事か」

「奴ら…ってお前、またあの連中に嫌がらせでもされてたのか?」

ーまた、と言うあたり恐らくはヒュウも少なからず心当たる場面に遭遇した事があるのだろう。

「それよりさ、此処に来る途中で俺の靴とかって、見かけなかった?」

「それってもしや…これの事か?」

そう言いながらすっと目前に持ってきた一組の靴は紛れもなく、彼が今まで探していたものに間違いない。

「そう、
それで合ってるよ!…でも、これまた随分とズブ濡れだけど、一体どこに隠されてたの?トイレの中?」

確かに彼も指摘するように、靴からはかなり水を含んでいるような感じがするし、実際、水滴がポタポタ地面に滴り落ちている。

「いや…これがあったのは、その先の燃えるゴミのゴミ箱の中だったぜ?

…っていうか、悪い。
ゴミ箱の中身が割とくっついてたから途中の水道で少し洗ってはみたんだけど…何か、ガムらしきやつとかは全然取れなかった…」

「あらら…って、わざわざ洗ってくれたのかよ!?」


―ホントにもう、
ヒュウはいつもいつも優しいんだねぇ…と小さく笑う。

「何か…俺なんかと一緒にいるせいで、色々と気ぃ使わせてゴメンな」

「別にいいよ。こんな事くらいで気を使ってるとは思ってねーし」

「そっか…」







(…何て、
油断しきっていた矢先。

頭上から突然、冷たい液体が降りかかってきたせいで靴だけではなく、自分も、ましてや隣にいたヒュウでさえも、揃ってズブ濡れになりましたとさ)
 

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