短編(裏)

□ベビーフェイス
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田舎の高校から都内の大学を受験した幸村は、合格したと同時に佐助の家に居候する事になった。佐助は都内のマンションで一人暮らしをしていて、一人くらい同居人が増えても全く問題にならない広さであるらしい。

幸村は僅かな荷物だけを持ち、紙に書かれた住所を頼りに高層ビル街にやってきた。目的地についても、高級そうなマンションに今一実感が湧かず。幸村は滅多に使わない携帯電話を引っ張り出し佐助に電話をかけた。電話口に出た佐助は思いの外明るい声を出す。



「佐助、マンションの前に来たのだが…」

『えっとね、今からロック外すから中に入って』

「う、うむ…?」



マンションの自動ドアをくぐり中に入ると、大理石のフロアの奥に更にガラスのドアがある。「ジー、ガチャン」と短い機械音がして、透明なドアは勝手に開いた。



『えっとねえ、13階の1305号室だよ。その奥のエレベーターから上がってね』

「……佐助、俺は入る所を間違えたの出はないか」

『えー?間違えてないよ。早く上がっておいで』



幸村の緊張した声に佐助が小さく笑い、幸村に早く中に入るよう急かす。幸村は一旦電話を切ってエレベーターの前に行き、真っ黒に塗り固められた分厚いドアを前にそわそわと到着するのを待った。

佐助は幸村よりも六つくらい年上で、都内で売れっ子のモデル…らしい。幸村は田舎育ちだったので都内生活の佐助とは滅多に会えなかったし、彼がどういった暮らしをしているのか全く把握していなかった。そんな佐助と幸村がどうして居候させて貰うほど仲が良いのかと言えば、佐助と幸村は同郷で幼馴染み、通っていた道場が一緒だった所為だ。高校を卒業すると同時に都内に越してしまった佐助だったが、幸村との連絡は決して疎かにせず取り続け。

幸村にはある意味どうでも良い情報だったのだ。佐助が何をしていて、どう生活していようとも。幼馴染みで親友でもある佐助と、前のようにまた一緒に生活ができると思っただけで心が躍った。幸村が滅多に開かない携帯電話を買ったのも、佐助との連絡をする為だったりする。一つ余計な情報を書いておくと、幸村の携帯の待ち受け画面はモデル仕様の佐助の写真であった。



「1305…1305…」



廊下は恐ろしく長いが、部屋数は極めて少ない。幸村は結局最奥まで歩いて、目的の部屋を見つけ出した。緊張の面持ちで「ぴんぽん」チャイムを押す。そう間を置かずにドアが開かれ、中から顔を出した佐助は何処かいつもより大人びて見えた。






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