連載小説(裏)
□Dear my sisterC
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兄である政宗と“恋人同士”になって数日目のある日、幸村は政宗の家に招待された。
「えっと…ここを曲がって…」
幸村は真剣な面持ちでメモ用紙を見、信号を渡ってコンビニの前までやって来た。
(あ、あのマンションかも…!)
目的のビルを見つけ、幸村は思い切り破顔し細い路地を小走りで駆け抜けた。
何せ今日は晴れて恋人になった、大好きな、それはもう大好きでしようがないお兄ちゃん…政宗の部屋へ入れるのである。両親へは「兄のマンションに遊びに行ってくる」と言えば否とは言われず、お土産のお菓子まで持たされた。仲の良い兄妹が、まさか恋人同士になっているとも思うまい。
幸村はお土産を片手に千鳥足…というかもうスキップしている。白地にピンクと黄緑の花柄ワンピースに白いボレロ、白いタイツが目に眩しい。頭に小さなお花を付けた幸村は、このままモデルとして写真でも撮って貰えそうだった。普段そこまで格好に拘らない幸村が、ここまでお洒落に気を使って外出するというのも珍しい。母に桃色のリップなんて付けて貰って、幸村は傍目から見ても上機嫌だった。
「わあ…高い…」
目的地に辿り着き、上を見上げて簡単の声を上げる。マンションは黒い大理石をメインに作られていて、入り口は硝子張りの開けたロビーになっていた。飾られた観葉植物の横を通り抜け、何やら文字パネルの置かれている重々しい空気の入り口に立つ。前日、政宗から教えられていた通りに幸村はその文字パネルを操作した。番号を押して“呼び出し”というボタンを押すと「ピンポーン」と呼び鈴の鳴るような音がする。
少しして、文字盤の横に付いているスピーカーから聞き慣れた低くハスキーな声が漏れてきた。幸村が嬉々として文字盤に貼り付く。
『Hello?』
「あ、あのっ、幸村です!」
『分かってる、key開けたから』
と言う台詞と同時に「ウィーン」と機械音がし、文字盤の真隣にある自動ドアが開いた。
『奥のエレベーターで12階な』
幸村が何を返す間もなく、音声は切れ沈黙してしまう。幸村はドキドキしながら自動ドアをくぐりエレベーターの前に立った。
(お兄ちゃんと二人きり…!)
えへへ、と笑う幸村は純粋に兄と共有できるだろう親密な時間を思って破顔した。…が、やはり彼女に『恋人同士』の心持ちはいまいち薄く実感されているのであった。