お兄ちゃん奮闘記(小説)

□奮闘記第二部
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第二部
第1話:夏がきた!





「旦那早く早く!」

「あい!」



ばしゃばしゃ、土砂降りの道を二人して走る。その二人して、というのはまだ5歳になったばかりの幸村と周囲から「駄目人間」と賞されている佐助だった。

それぞれが雨を防ぐため、佐助が迷彩の鞄、幸村は真っ黄色の鞄を掲げて一目散に駆けている。必死に走って漸く家にたどり着いた頃には、二人はびっしょりと爪先まで水分に浸されてしまったのだった。



「はあ…まさかこんなさー…急に降るとは思わなかったよね」



濡れた靴下や衣服を玄関先で脱ぎ、下着姿で風呂場へと向かう。冬であればこんな事をすると寒さですっかり凍えてしまうだろうが、今は夏。というか梅雨。じとじととまとわりつく水分が生温い気温と相まって不快だった。

幸村を湯船に放り込み、自分も早々に湯に入る。熱い時に湯に入ると、汗を散々かいて風呂から出た時むしろ爽快な気分を味わえる…らしい(熱血な道場の某師範からの受け売りである)。



「お風呂出たらかき氷食べよっかー」

「かきごおり!」

「シロップ何がいい?」

「…い、いちご」

「ミルクもかけちゃう?」

「!!う、うむっ」



頬を赤くして大きく頷く幸村は、出会った当初よりも大分感情を表すようになった。特に食べ物に関しては気分がより向上するらしい。相変わらず普段は死んだ魚のような目をしていたが、時折見せる子供らしい表情を見るのが佐助の楽しみにもなっていた。



「あ、そう言えば」



お風呂から出て、ペンギンのかき氷機に氷を入れている真っ最中、佐助が何かを思いだしたらしく不意に手を止め幸村を見た。



「今度俺様、どうしても断れなくて一晩家に帰れそうにないんだよね」



かき氷を入れる器を懸命に持っている幸村の頭を、そっと撫でつつ言葉を続ける。



「一人でお留守番するには何もないからさ、ここ。だからどっかに預かって貰おうと思うんだけど」

「あずかって…?」

「えっとねえ、最初に幸村が預けられてたとこ。大将…もといあのクマさんみたいなおじさんがいるとこ。そこが一番候補なんだけど」

「クマ…?」

「でも大将この時期忙しいかもしんないから、もしかすると政宗とか…ほら、あの何か…鮫みたいなさ」

「おいかけっこ!」

「あは、そうそう。あの本気で追っかけてきた怖い人ね。あいつ怖いけど、意外ときちんとしてるから子供一人くらい何とかしてくれそう…いや、逆に怖いか」



はは、と何やら思い出し笑いをする佐助に小首を傾げる幸村。幸村は今一ピンとこなかったが、鮫みたいな人については想い出す所があったようだ。困惑したような、戸惑ったような様子も見える。



「旦那はどっちがいい?夕方に預けて、次の日のお昼くらいに迎えに行くよ」



幸村は佐助と一緒にいると少しごねたが(とはいっても沈黙していたくらいなのだが)、しばらくしてどちらか、無事選ぶことができたようだ。

幸村が道場か政宗の家か、どちらを選んだかというと…





つづく

プチ企画の募集は終了しました。
ありがとうございます!!結果をお楽しみに^^


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