お兄ちゃん奮闘記(小説)

□奮闘記第二部
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第2話 鮫のお兄さんA





この状況、一体どうする!?政宗の手持ちのカードは以下の三つ。



『追い出す』

『面倒を見る』

『誰かに任せてみる』



一枚目のカードは、流石に良心が痛んだのか政宗は早速選択肢から外した。残りの二つ、政宗の本心としては佐助の友人の誰かに引き渡してしまいたい。よって『誰かに任せる』というカードが残る訳で。

(慶次とか実家暮らしじゃねえか…佐助に頼まれたと言えば)

何とかなる気がする。政宗は早速携帯を引っ張り出したが、電話をかけようとした所で邪魔をするかのように一通のメールを受信した。



from:猿

題名:無題

本文:他のところにたらい回ししないでね!何を隠そう、これは幸村の希望です!



「…」



メールを受信して、怪訝な表情。思考を読まれたのもさながら「幸村の希望」という文面に目が留まる。佐助が無理に連れてきた訳ではなく、隣でじっと立つ子供…幸村が、わざわざ政宗を指名してここにいるという訳だ。という事は、彼が少なくとも自分に「興味」か「好意」か、何かしら上向く方向の感情を抱いているという事である。



to:猿

題名:Re:

俺に子守なんざできるかよ。さっさと連れて帰れ



from:猿

題名:Re:Re

いいじゃん、どうせ暇でしょ。手料理とか、食べさせてあげたらいいじゃん(笑)



(笑)じゃねええええ!!

「ピシィ」政宗は携帯電話を強い力で握り締めてしまい、小さなそれは悲鳴を上げて軋んだ。家に入らず、子供を傍らにメールのやりとりを続けるという何とも不思議な光景である。



To:猿

題名:Re:Re:Re:

慶次辺りに任せればいい話だろ。



To:猿

題名:Re:Re:Re:Re:

だから、幸村の希望って言ってるじゃん。それにさ、ただでとは言わないって。もし明日の昼まで預かってくれたら、俺様何でもするよ。政宗の言うこと何でも聞くし(笑)



だから(笑)じゃねえよ…と政宗はこめかみに青筋を浮かべたが、「何でも」と言う言葉に若干そそられるものがあった。怒り一色だった思考に、ほんの少し色が入る。

ここでどうでもいい事実を述べておくと、政宗は最近付き合いの悪い佐助にお預けをくらって酷い欲求不満状態である。



To:猿

題名:Re:Re:Re:Re:Re:

その言葉、忘れんなよ。餓鬼は申し訳程度に預かってやる



送信して、漸く携帯電話を閉じる。そのまま家に入ろうとして、後に誰も付いてこない事に気が付いた。玄関手前で振り返れば、幸村が路上で立ち惚けたまま全く動こうとしない。

(…まるでリカちゃん人形じゃねえか)

大袈裟に溜息を吐いて、直立不動の子供に言葉を放る。



「…Hey、さっさとこっちに来い」

「!」



呼ばれた事に気付いたのか、幸村は釣られた魚のように慌てて政宗の側へと飛んできた。死んだ魚のような目が、どこか緊張した風に泳いでいる。

(友人だって滅多に呼ばねえ部屋に糞餓鬼を招く羽目になるとはな)

自嘲的にぼやいて、海に未練がありそうな小さな魚を酸素がいっぱいの玄関へと放り込んだのだった。





Bにつづく



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