お兄ちゃん奮闘記(小説)

□奮闘記第二部
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第二話:鮫のお兄さんD





一人暮らしをするには広すぎる一軒家。ついでに言えば幽霊でも居着きそうな寂しい家だ…と、政宗の家の前に立った男は思っていた。そう早くもない午前中にこの家を訪ねたのは、政宗の知人というか、お目付役というか何というか。とりあえず彼とある意味親密な間柄を築いている強面の男であった。名を片倉小十郎と言う。

小十郎は両手にひっさげていたスーパーの袋を一旦置き、懐から取り出した鍵で何の躊躇いもなく他家の入り口を開いた。ずかずかと中に入り、廊下を伝いリビングへ向う。

彼にこうも遠慮が無いのは、この行為が最早日常と化しているからであった。スーパーの袋の中には食材が詰まっていて、普段あまり食に気を使わない政宗(と小十郎は思っている)に、こうして的的に食料を持ち込んでは世話を焼いている。しんと静まりかえった室内に、灯りが点いた箇所は見当たらなかった。まだ家に帰っていないのか外出中か、もしくはまだ寝ているか。彼が家にあまりいないのは日常茶飯事だったので、小十郎は特に気にする出もなく台所へと向かった。食材を入れようと冷蔵庫を開いて、何故か必要な食材が仕舞われている事に驚く。



「…客人か…?いや、まさかな…」



小さく笑って、買ってきた食材を詰め込む。あ、玉ねぎは既にあるのか。買いすぎたな…などと思いつつ小十郎は全てを仕舞い終わった。ついでに台所も綺麗にしよう、振り返った時。視界に入った「人影」に思わず飛び上がるぐらい驚愕してしまった。

台所の目の前、大きな机の椅子にぽつんと一人、子供が座っているのである。



「坊主…、いつからそこにいた、」



問い掛けてみると、はっとした風に子供が小十郎の方を向いた。しかしそれ以上の反応は無いし何も言葉が返ってこない。

(まさか…隠し子…?前々から人付き合いが荒いなどと思ってはいたが…まさか子供が、)


小十郎が眉間を押さえながら呻く。ちらりと子供を窺えば、何やら表情は暗く瞳に光りが無い。

(…もしかすると…D…Vなんて可能性が…)

子供なのに一言も発さず、何の感情も滲ませる事無く小さくなって椅子の上に座っている。まるで自分の存在をこの世から消しでもしたいような、もしくは世界が終わっているような。隠し子だとすると、政宗に疎まれ虐げられているとか…そんな、政宗に限ってそんな事は…ありえたら大変な事だ!

この時の小十郎は、完全に冷静な思考を失っていたと言ってもいい。まさかの可能性を思いついてしまった小十郎は、台所から勢いよく飛び出した。二階へと駆け上がり、寝室の扉を勢いよく開け放つ。



「ままま政宗様ああ!!!!!」



それがあまりの大声だったため、ベッドで小山を作り眠っていた政宗は一気に覚醒してしまった。無理夢から引っこ抜かれた意識はドが付くくらいには最悪で、政宗はうっかり殺意が沸いた。ドスの利いた声で反応を返すも、小十郎に怖じ気づく様子は無い。



「…Ah…?」

「政宗様!下にいる子供は何です!」

「……はあ…?Child…こどもだろ、…子供?」



枕に顔を埋めたまま、政宗が何かを思い出したように頭を掻いた。舌打ちをしながら上体を起こし、ベッドからやれやれと言った風に足を降ろす。



「まさか隠し子では、」

「Ah?ンな訳ねえだろうが」

「では一体どうして」

「Shut up、小十郎。後で説明するからちょっと降りてろ」



良いながら小十郎が部屋を締め出される。違うと否定されたものの、色々な疑惑が小十郎の頭を巡っていた。…それだけ政宗の普段の行いが悪い訳だが、しばらくして起きてきた政宗の話を聞いて小十郎は疑惑ならぬ「疑問」を手に入れてしまった。



「…はあ。それで、この子供は預かったと」

「押しつけられたと言え。隠し子なんてもんでもネエし、こいつは今日中に佐助が迎えに来る事になってんだよ」



面倒くさそうに言って、政宗が冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し飲もうとしている。「またこんなに買ってきたのか」と呆れたように言う政宗の台詞を小十郎は既に聞いてはいなかった。

(あんなに嫌っていた子供を政宗様が預かっている?…追い出しもせず、一晩一緒にいたというのか)

政宗が大の子供嫌いだという事は、彼を身近で見てきた小十郎が誰よりもよく分かっている。



「お前いつから起きてたんだよ。…はー…起きてんなら言えよ…ったく…。朝飯は?食ってる訳ねえか…」



ブツブツ、文句を言いつつ子供に朝ご飯を作ってやっている政宗に、小十郎は何か得体の知れない「変化」のような物を感じとっていた。





おしまい

次回でとりま終わり…かな。

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