忍たま

□こっち向いて
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「僕には入る隙間はないのかな」


いつも無意識に目で追ってしまうお揃いの鶯色の背中を見送ると、静かに瞼を伏せた。



そんな事を何度も繰り返す自分を嘲笑う自分がいた。


その度、ひどく、泣きたくなるんだ。



そんなの日常。













「あれ、数馬?」

「作兵衛?」


三反田数馬は、保健委員の仕事で、一人、保健室にきていた。普段なら最低二人で保健室の当番をするのだが、今日は珍しく一人である。先程、怪我人を何人か手当てし終え、後片付けを済ませたので、一息入れようと、保健室専用に置いてあるお茶を淹れた。そして一口飲むと、目の前の襖が静かに開いた。その先に立っているのは、同級生の富松作兵衛であった。


「どうしたの?」

「いや、少し怪我しちまって…」


眉をハの字にすると、襖を閉め、重い足取りで数馬の横までくると、落ちるように腰を下ろす。それと同時に、数馬は手にしていた湯飲みを邪魔にならない場所へ置くと、向き直る。彼を見れば、全身砂だらけだ。髪もだいぶ乱れていて、お馴染みの、迷子探索後だという事が言われずとも理解できた。


「どこを怪我したんだ?」


数馬の問いかけに、作兵衛はゆっくり右足を差し出す。袴を膝上まで捲り上げれば、膝小僧が真っ赤に染まっていた。


「結構ひどいね、よっぽど盛大に転んだんだね」


傷口をみて眉を潜める。そうして言われた言葉に、作兵衛は苦笑いを溢した。


「左門と三之助を探しに行った時、うっかり足を滑らせちまって、段差から滑り落ちたんだ。その時にやっちまった…」


情けない、と、困ったように笑う作兵衛に、数馬もつられ笑い。


「しみるけど、我慢しろよ」

「…ぅ、イタッ〜〜〜ッ!」


消毒液を傷口に当てるのと同時に襲ってくる痛みに顔を歪めて、逃げそうになる足を必死に我慢した。そんな作兵衛をチラリと盗み見ながら、数馬は、少しでも楽になる様に、手早く手当てを施す。


「はい、できた」

「…ありがとな」


数馬にを見て、次いで綺麗に巻かれた包帯を見て笑むと、捲った袴を元に戻した。
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