忍たま
□綺麗なの
1ページ/1ページ
作兵衛の髪はすごく綺麗だと思う。
僕はよく、髪質がよくて綺麗な髪だと言われるが、一度も自分の髪を綺麗だとか、良いと思ったことはない。僕のなんかより、今、僕の目の前で一定のリズムで左右に揺れる深緋色の方が綺麗なのだから。その髪の持ち主―富松作兵衛は、僕の手を引いて何やらブツブツと呟きながら、ズンズン前へ進んでいく。
彼の髪は、沈み始めた陽の光を反射させ、キラキラと輝いていて、思わずじっと見つめてしまう。
「っとに、何回迷子になれば気がすむんだよ」
「……」
「次は三之助も探さないといけねぇし…迷子になるなら二人一緒に迷子になってくれ」
「………」
「…左門?」
作兵衛の髪に意識を全て持っていかれていたせいで、作兵衛の言葉に反応できなかった。
黙りな僕を不思議に思い、くるりとこちらを振り向き立ち止まる作兵衛。同時に髪は大きく振れ、作兵衛の首にさらりと掛かる。
「…ンぁ?」
「どうしたんだ?急に黙りこんで」
「ああ…」
見とれてたものだから。
そう応えれば、「何に?」と、誰もが予想できる返事が返ってきた。
「髪に」
「髪?」
「そう、作兵衛の髪に」
すると、束ねてある髪を少し摘まむとそれを見つめる。僕もつられてそれに視線を落とす。すると作兵衛の瞳がこちらに向いた。じっと、見つめられる。
「何だ?」
「オレにはお前の髪の方がいいと思うけどな」
そう言って、苦笑いすると、摘まんでいた髪をぱっと、後ろへ投げた。
「僕はそうは思わん」
「お前はそうかもしれねぇけど、公認されてるし」
その言葉に、以前学園内で取られた、サラサラストレートヘアーランキングに自分がランクインしていた事が思い出された。
「そんなに僕の髪はいいのかぁ」
前髪を摘まんで口にすれば、お前の髪はサラサラで触り心地がいいしなぁと、笑われた。
「さぁて、のんびり立ち話してる場合じゃねぇ。三之助を探しに行くぞ」
もう直ぐ日が沈む
くるりと、再び僕に背を向ける作兵衛の髪はまたしても大きく振られて、眩しい程に陽の光を反射させた。
ほらと、差し出された手を繋げば、先程より大股で歩き出す。
僕はと言えば、また目の前で大きく揺れる深緋色に目を奪われていて。先程よりも陽の光が強くなったお陰で、目がチカチカする。
ふるふると、目を閉じ、首を降って、視線を作兵衛の頭上に持っていく。少し、藍色に染まり始めた空が、彼の上に広がっていた。
end
+++
ただ、作兵衛の髪は綺麗だと言いたいだけの話。
毎度の事ながら失礼しました(><)