忍たま

□通りすがり
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用具の在庫確認のため、用具倉庫に向かう途中、見慣れた茶色が目に入った。それは自分に背を向けており、座れる程の大きさの石に腰を下ろしている。手には何やら白くてひらべったい物が握られており、ぺったん、ぺったんと、一定のリズムで地面にたたき付けている。
彼−七松小平太は、同じ六年生の中でも一番元気な人物だ。だが、今の彼の背中からはいつもの元気さが全く見られなかった。しゅんと、耳をぺたりと垂らした犬の様に、ひどく落ち込んでいるのだ。


まるで主人に叱られた大型犬だ…


心の中で小さく呟いたのと同時に、見つめていたものがこちらを向いた。大きな丸い瞳が、ぱちくり、一回瞬くと、すごい勢いでこちらに向かって走りだした。そして、近くまで来た所で思いきり地を蹴り、飛び掛かってきた。全体重をぶつけられ、両足に力を込めたのも虚しく、そのまま後ろに倒れ、地面に背中をぶつける。同時に後頭部もぶつけた。ごつん、と鈍い音をあげて。
余りの衝撃に、一瞬、花畑が見えた気がした。痛む頭に両手をあて、静かに悶えているオレをお構いなしに、飛び掛かってきた大型犬−小平太は、オレの胸に頭を埋めて泣き出した。


「留三郎ー!!」


オレの名を叫びながら、更に胸に顔を埋めてくる。
わんわん泣く小平太に、頭の痛みが治まってきた所で声を掛けた。


「泣いてたら分からないだろう。どうしたんだ?」


オレの質問に応える様に、先程から手に持っていた白い物体を顔の前に差し出してきた。


「…?何だこれ?」


目の前で小刻みに震えている、白くひらべったい物体。あまりにも近くにあるため、焦点が合っていない状態で、それが何だか分からない。
顔を白い物体から離そうと少し身じろいだ。焦点が合ったその時、見えたのは、バレーボール…だった物。元は丸いそれは、今はひらべったい物体、他成らない。


「また壊したのか?」


「壊してない。壊れたんだ」


相変わらずオレの胸に顔を埋めたまま、震えた声で返事をくれた。そんな彼に思わず苦笑い。
確かに、彼は壊すつもりはないのだろうが、他の人より元気も力も有り余っている彼に、ボールは耐え切れないのだ。仕様がないと言えば仕様がないのだが。


「も、もう、ボールがないんだー!!」


突然顔を上げたかと思うと、わぁぁああんと号泣し始めてしまった。今まで堪えていたのだろう、溢れ出す涙は、彼の顎を伝って、ぽたぽたとオレの胸元を濡らしていく。


「こ、れから、皆で、バレーボールしよ、うと思、ってたの、にー!!」


わんわん泣き続ける小平太の頭をぽんぽんと幼い子を宥めるように優しく撫でた。暫くして、小平太が落ち着いてきた所で、のしかかられたままの体をゆっくりと起こす。すると小平太は、力なくするりと、オレの体から地面に落ちた。ぺたりと地面に座り込んだまま、鼻をすすっている小平太に、普段の元気は何処へ行ったんだ。ギャップがありすぎるだろうと、今更ながら、胸がドクンと高鳴った。


「…貸してみろ」


小平太からバレーボールだった物を受け取る。見れば、そこまでひどく破れてはいないようだった。もはや使い物にならなくなったボールをじろじろ見ているオレを不思議に思ったのか、うっすら涙を溜めた瞳をこちらに向ける小平太。


「仕様がない。直してやるよ」


そう小平太の目を見て微笑めば、笑顔が返ってきた。


「本当か!?留三郎!!」


目を輝かせ、オレの顔に顔を近付ける小平太に、不覚にも顔が熱くなる。本当だと返せば、ありがとうー!!と、お礼の言葉と共に抱き着かれた。ぎゅっ、ぎゅっと抱き着く小平太に、顔の熱が全身に広がっていく。頼む。頼むから、離してくれ。


「あ!これから委員会があるんだった!ボール頼んだぞ!留三郎!!」


じゃあな!!と、引っ付いてきたと思えば何処かへ掛けて行ってしまった。いつもいつも、落ち着きのない奴だ。そんな小平太にいつも振り回されている自分に対しても溜め息をついた。
さて、在庫確認をさっさと終わらせて早くボールを直さないと。手に持っている無惨な姿になったボールを見て、小さく笑った。



END



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留三郎の口調が分からない←
相変わらずひどい文だ!(嘆。

留は修理とか補修とかそんなン絡みの話ばっかり浮かぶ…







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