忍たま

□ゆっくり、咲かせましょう
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口から漏れるのは、溜め息ばかり。今オレは、自室にて、机に忍たまの友を広げたまま、それを読もうともせず、視線は斜め上を向いたまま、ぼーっと時間を過ごしている。明日にペーパーテストが控えているというのに、これではよい点数は期待できない。はあぁぁ、と、また溜め息が零れた。頭を過ぎるは、先程目にした光景。


―斉藤が綾部と何やら楽しそうにじゃれ合っている姿。抱き着き抱き着かれの繰り返し。


目にした瞬間、頭上から石が落ちて来た様な衝撃を受けた。


「…ンだよ」


はあぁ…。また溜め息だ。
オレは14歳になって、初めて恋というものをした。初めは全く、自分の気持ちが分からなかったんだが、初めて抱く感情を、はちに相談して恋と言う感情だと知った。それからオレは、ある日決心して、想いをあいつに…斉藤に、伝えたんだ。あの時のオレといえば、酷いものだった。目の前にいる斉藤に、顔は熱くなるし、言葉はなかなか口に出せないしで。どうしたの?って、そんなオレを見て斉藤がぱちりと一回瞬きをした時なんか、軽く眩暈までした。それぐらい可愛くて可愛くて仕様がないんだ。斉藤は。それから、グッと、拳に力を込め、オレは斉藤に想いを伝えた。当たって砕けろ!と覚悟していたオレに、斉藤の返事はそれとは逆のもので。1番に返って来たのは、今までに見た事のない、斉藤の笑った顔だった。

嬉しすぎて泣きかけたんだよなぁ……。


ぼんやり思い返してみれば、あの日と同様に、顔が熱くなってきた。

斉藤はオレを選んでくれたんだ。だから、だから、……


それでも何度も頭を過ぎる綾部とじゃれ合っている斉藤の姿。
あまりにも楽しそうな顔をしていたものだから、あの日、想いが実った記憶は夢だったのでは?と、うっすら思ってしまう。
思えば、両想いになってそう日は経っていなかった。


「へーすけくーーん」

「!?」


突然、今1番会いたい様で会いづらい人物の声が、戸越しに聞こえてきた。不覚にも軽くびくついてしまった。


「入るよー?」


ゆっくりと戸が開かれ、薄い黄色が顔を出した。


「な、なんだ?どうした?」


しまった。吃った…。


「あのね。教えて欲しい事があって〜…」


今いいかな?なんて、小首を傾げる斉藤。誰がこんなにも愛らしい仕草見て断れるというんだ。


「ああ、構わないけど」


返事をして、机上に広げただけだった忍たまの友を閉じ、隅に退かした。







30分は経っただろうか。斉藤が解らないと言って持ってきた問題用紙の空白が残りニ問となった。ちらりと斉藤に視線をやると頭を使い果たしたと言った様に、疲れの色が見られた。一息入れるかと言えば、うん!と笑顔が返ってきた。


「…へーすけくん」

「何だ?」

「兵助くんの髪、結わせて」


にこりと笑ってオレを見る斉藤。それだけで鼓動が速くなる。
いいよと言えば、小走りでオレの背後に回ってきた。


「兵助くんの髪はいつも気持ちいいね〜」

「そぉか?」


オレの髪に櫛を通しながら口にした斉藤の言葉に、問い掛ければ、そうだよ、と、返された。
ゆっくりと優しく、髪に櫛が通される。髪に斉藤の手が触れる。それだけで、オレの心が満たされた。


「…オレは、斉藤の髪の方が柔らかくて気持ちいいと思う」


正面を向いたままだった顔を上に向ければ、斉藤と視線が合った。片手も上にやり、斉藤の横髪にそっと触れる。さらりと揺れた。外からさす光に斉藤の髪がきらきら輝いていて、眩しさに目を細めた。


「綺麗だな」


自然に漏れた言葉。光に反射して輝く髪ももちろんだが、それと同時に、光を受けた大きな瞳も、曇りのない綺麗な蜂蜜色で、見取れてしまう。
すると突然、眉をはの字にしたかと思えば、視線を外され、斉藤の顔が視界から消えてしまった。
どうしたんだろうと、体を捻らせ、後ろを見れば、小さく俯く斉藤の姿。どうした?と、顔を覗き込んで見れ、顔が真っ赤になっている。熱でもあるのかと、斉藤の頬に手をやり、顔を上げさせ、額に手を乗せてみた。


「へ、兵助くっ…!?」

「…熱はないみたいだな」


大丈夫か?と、声を掛ければ、兵助くんのせいだよっ!と、叱られた。


「へ、兵助くんが、その、恥ずかしい事言うから…っ!」


半泣き状態で、訴えてくる斉藤に、何かしたか?!と、こちらまで顔が赤くなる。答えが解らぬまま、考えていると、もぅ、と頬を膨らませる斉藤は、これまた可愛い。





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