忍たま
□その手を止めて!
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縁側に二つの陰が伸びている。
その陰の一つの主、綾部喜八郎は、ぼぉーっと空を眺めていた。暫くして、空を映していた瞳がするりと下に下り、色素の薄い髪を映す。その髪の持ち主―斉藤タカ丸は、もぐもぐと饅頭をほうばっていた。
「美味しいですか?」
「ふん。おいひぃよぉ!あひぁふぇふんもふぁへる?(うん。美味しいよぉ!綾部くんも食べる?)」
ふぁぃ、と、差し出された手には美味しそうな饅頭がちょこんと乗っかっている。ありがとうございますと、一言お礼を言うと、そっとそれを受け取った。
ちらりと隣を見れば、相変わらず美味しそうに饅頭を食べている。それにならって、綾部もぱくりと一口、饅頭に口を付ける。ふわりと口の中に甘さが広がった。
……甘い。
口の中は饅頭のあんによる甘さでいっぱいになっており、一カ所、口を付け、あんが顔を出している所からも、甘い香がして鼻を掠めた。隣を見れば、相変わらず幸せそうに饅頭をほうばっているタカ丸。桜色をした小さな口は、止まる事なく饅頭を食べていく。いつからこんな食いしん坊キャラになったんだろうと、ふと、一年によく食べる子がいたなぁと思い出した。このまま食べていたらあの子のようにぽっちゃり体型になってしまうのでは?それだけは止めて欲しい。今の、まだあまり筋肉がついていない、やわらかな身体な彼が好きなんだ。あの触り心地がすごく私好みなんだ、と、本気で考え、頭を横に振った。
「ふきゃっ!…どうしたの?綾部くん」
突然、腰に抱き着いてきた―というよりはしがみついてきた綾部に、タカ丸はうっかり手に持っていた饅頭を落としかけた。
「あんまり食べると、太っちゃいますよ」
だから止めて下さい、と、タカ丸の腰に顔を埋めたまま口にした。同時に腰に回している腕に力を込める。
「大丈夫だよ!これくらい〜♪」
綾部の忠告も虚しく、タカ丸は手に持っていた饅頭をぱくり。幸せそうにうっすら頬を染め、饅頭を噛み締める様子は、可愛らしく、癒されるのだが、今の綾部にはショックを与える他なかった。
「綾部くんも食べる?」
再び目の前に饅頭を差し出される。綾部は腰にしがみついたまま、首を横に振った。
「美味しいのに…」
完全拒否され、タカ丸は拗ねた様に、口をすぼめる。そして差し出していた饅頭を口へと運んだ。
ぱくり。
「!!??」
饅頭を口にしたはずの口は、饅頭には届いてなく、噛み付く予定だったそれは、綾部によって、逆に噛み付かれてしまった。
「ん゛ーー!?」
ぱたぱた、両手を振ってから、綾部を引き離そうと綾部の胸を力いっぱい押した。
ぷはっ。
「…なっ!いいいきなり何するの!?綾部くんッ!!」
かぁあああ!!と、効果音が聞こえてくる程に、一瞬にしてタカ丸の顔が赤に染まる。そんなタカ丸を綾部は真剣な眼差しで見つめていた。
「タカ丸さんが、私の忠告を無視したからです」
「…へ?」
綾部の言葉に、タカ丸は、キョトンと瞬きをぱちくり。
「太っちゃいますよ、あんまり食べると」
そう言うと、綾部はタカ丸の手から饅頭を奪い取り、自分の口に放り込んだ。
「綾部くんは、心配性なんだよ〜。大丈夫だってばぁ〜」
だから食べさせてーっと、眉をハの字にするタカ丸。すると綾部は、タカ丸の傍らでスタンバイしている、饅頭の入ったお皿をも奪い取った。
「ぁあっ!僕のお饅頭〜!!」
返してーっ!と、大きな蜂蜜色の瞳が揺れる。が、しかし、綾部は、大きく首を横に振った。
「ダメ、です」
きっぱり言い切る綾部に、タカ丸は、これ以上頼んでも無駄だと感じ、しゅんと俯いた。
「私は今のタカ丸さんの体型が好きなんです」
ぎゅっと、今度は胸にしがみつく。
「だから、…ダメ、です」
タカ丸の胸に顔を埋めたまま話す綾部に、タカ丸は困ったように笑った。
「…分かった。今日はもう、お饅頭食べない」
ね?と、綾部の顔を覗き込みと、綾部がゆっくり顔を上げた。至近距離で見つめ合う。タカ丸は再び、恥ずかしさに頬を染めた。耐えられなくなって、顔を反らせようとしたタカ丸の唇に温かい物が触れる。今度は噛み付くような接吻ではなく、優しいものだった。ちゅっ、と、わざと音を立て、唇を離す綾部に、タカ丸は恥ずかしそうに眉をひそめる。
「よろしい」
ふっと笑うと、綾部はタカ丸の柔らかな髪を撫でた。
余談
饅頭の入ったお皿を眺め、そして視線を綾部に移すと、タカ丸は口を開いた。
「お饅頭、勿体ないから、兵助くんにおすそ分けしてくるね!」
言葉と同時に、皿に手を伸ばすと、綾部の手により阻止された。
「ダメです」
はっきりと言い切る綾部に、タカ丸は何で?と、小首を傾げる。
「あんな豆腐野郎なんかに食べさせるくらいなら、私が食べます!」
力強く言うと、饅頭にがっつき始めた。
「あっ、綾部くん!?」
呼んでも綾部は、もぐもぐと饅頭をどんどんほうばっていく。
「綾部くん、止めて!太っちゃうよぉ!?」
タカ丸は必死に、綾部を止めようと、話し掛けたが、綾部は聞く耳を持たず、食べ続ける。
「綾部くぅうううん!!」
悲鳴にも似た声が、学園に響き渡った。
end
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書いてる途中、間違えて文を消してしまうという痛い事故がありました。(あまりのショックに書くのを止めようかと思った(嘆。)
やっと両想いな綾タカ書けました!
本命なのに、くくタカを先に書いてた私って……。
ホントは体型なんてどうでもいいんですよね(愛には関係ない!)ぽっちゃり体型なタカ丸でも、綾部は愛しまくりすよwでもやっぱり、今の体型のタカ丸がいい(笑。
タカ丸は綾部より、筋肉付いてないと思うんだ。