忍たま
□僕等の太陽
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「七松先輩って、太陽みたいだよね」
そう言って、四郎兵衛は目を細めた。
今日の体育委員会の活動は、学園から裏裏裏山までのマラソンから始まった。今は、山を登ったり下りたりを繰り返している途中である。
「せんぱーい!」
子供独特の高い声が山に響いた。
「時友先輩、どうしましょう」
叫び終え、体育委員―皆本金吾はくるりと振り向き、自分の背後で辺りを見回している人物に、投げ掛ける。声を掛けられた、同じく体育委員ー時友四郎兵衛は、困った顔で、自分をみる後輩の視線を受け止めた。
「滝夜叉丸先輩は、次屋先輩を捜しに行っちゃったし、七松先輩はどんどん先に行っちゃって」
しかも、今自分がいる場所も分からない。
見事に迷子になってしまった二人は、互いの顔を見合わせ、小さく溜め息をついた。
「…もうすぐ日が沈む」
四郎兵衛が顔を上げ呟く。先程まで自分達を照らしてくれていた、眩しい光が、姿を消し始めていた。それに比例して、辺りがだんだん暗くなっていく。どうしようどうしようと、悩んでいる間に、二人は闇に包まれてしまった。
「…日、沈んじゃいましたね」
「…そうだね」
自分達を包む闇が時々、カサカサ音を立て、何処からか、鳥の声が鳴り響く。その度、二人は身を寄せ合った。
「うぅぅ…寒い〜」
日が沈み、気温が下がる。冷たい風が二人の肌を撫でた。
「僕も寒い…」
両腕を摩る金吾の言葉に同意すると、四郎兵衛も手と手を擦り合わせた。先程からぶっ続けで走り回っていた為、二人の体力は限界を迎えていた。歩く力すら、もう残っていない。二人は、言葉を交わす事なく、同時に、近くの木にもたれ掛かり、腰を下ろした。四郎兵衛がちらりと隣に視線をやると、瞼を伏せては開くを繰り返し、睡魔と戦っている金吾の姿が。
「…金吾は最近すごく頑張ってるよね」
「えっ」
視線を金吾に向けたまま口にすると、金吾はパチリと一回瞬き、こちらを見た。
「そ、そうですか?」
「うん」
照れながら人差し指で頬を掻く金吾に、四郎兵衛はにっこり笑った。
「早く強くなりたいんです。早く、…七松先輩みたいに」
そう決意を語る金吾の瞳は、キラキラと輝いてみえた。
「そして、いつか、七松先輩を追い抜く程に、強く」
その瞳は真剣そのものだ。四郎兵衛はただ、力強く語る金吾を静かに見つめ、耳を傾けた。
「だから、一日でも早く強くなれるように頑張ろうと思って」
「…金吾は、七松先輩のこと好きなんだね」
「ぇえっ!?…あ、はいっ!!」
「僕もいつか、七松先輩みたいに力強くなりたいなぁ」
今の僕は、弱くて……皆より劣ってるから…。
そう呟くと、四郎兵衛は、膝を抱え、ぎゅっと縮こまった。そして、足元に生えている草を毟ると、前方へ投げ付ける。手から離れた草は、風に流され暗闇へと消えていった。
「僕がもっと力があれば、今みたいに迷子にならなかっただろうし、なったとしても、抜け出せたと思うから」
頼りない先輩だよねっ…。
そう呟き、膝に顔を埋めた。そしてぎゅっと握りこぶしを作る。それは小刻みに震えていた。
「時友先輩…」
顔を上げようとしない四郎兵衛を金吾は静かに見つめた。その瞳からは哀しみの色が見られる。
「…そんなことないですよ」
金吾がすっかり冷えて冷たくなった手を、優しく四郎兵衛の握りこぶしに被せる。
「今、僕は助けられてますよ」
「…ぇ?」
ゆっくり、伏せられていた顔が上げられ、金吾を見る。
「時友先輩がいるから、今僕は全然淋しくないし、怖くないです。これから一緒に強くなりましょう!」
力強く言うと、金吾は笑った。
「…う、うんっ!!」
四郎兵衛も、金吾に負けないくらいの笑顔で返した。