short
□髪
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休日の夕食時。
トントントンと安心できるリズミカルな音と、嗅覚から空腹中枢を刺激するいい香り。
幸せだな、なんて一人口元を緩ませる。
でも、一人椅子に腰掛けているのは何だか落ち着かなくて、読んでいた本を置いてキッチンへ向かった。
「キラ?」
キッチンを覗くと、青いエプロンをしたキラが真剣な表情で鍋と向き合っているのが目に入った。
俺の呼びかけに気付いたキラは、ぱっと顔を上げて時計を確認すると急に慌て始める。
「ああ!もうこんな時間!?ごめん、もうすぐできるから!」
「いいよ。俺も何か手伝おうか?」
「ううん。本当にもう終わるし」
ありがとうと笑ってキラはすぐに視線を鍋に集中させる。
今日は「腕によりをかける」らしい。
そのわりに、コンロの上にあるのが土鍋ひとつなのはどういうことだろうか?
キラが作ってくれるなら何だって嬉しいけれど。
鍋の周りをチョコチョコ動き回りながら準備を進めていくキラ。
一緒に、鳶色の髪も揺れて、
可愛い。
無性に構いたくなってサラッと流れる毛先に手を伸ばした。
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