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□恋愛小説
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見慣れたはずの幼馴染の部屋。
物心付く頃からお互いの家を行き来していたのだから、物の配置や本の並びまで何でもあいつの事は知っているつもりだ。
いや、知っているつもり『だった』。
何故、あの時。
あんな事が気になってしまったのか今でも分からない。
【恋愛小説】
「恋愛もの?」
「あぁ、ないなと思って」
本棚や床に無造作に並ぶ本を見ながら、ふと思った事を口にした。
この部屋はキラが大学に入ってから一人暮らしを始めた部屋だ。
8畳ワンルームのこの部屋には本が溢れていて、プログラミングしか興味がないように見えて意外にキラは本好きだ。
SFやミステリー、時代もの……ジャンルは問わない。
そう思っていたのだが、恋愛ものだけはないことにこの時気が付いた。
「そうか……そうかも」
「おい、自分の本だろう」
本の持ち主であるこの幼馴染は、今気が付いたと言わんばかりに頷いた。
呆れながら俺は手元にあった本を手に取り、それとなしにページをめくると読みかけなのか途中に栞が挟まっていた。
他の本を見れば、どうやら読みかけのものが多いようだ。
俺の視線に気が付いたのだろう。キラは自嘲気味に微笑んで、
「どうにも恋愛ものは苦手で」
と答えた。
「苦手?」
「うん、好きじゃない」
「どうして?」
「なんて言うんだろう。そういうものを見ても、読んでも白けた気分になるだけなんだ。」
俺は後に追及したことを後悔することになる。
「こんな事はありえないって分かっているからかな?人が一人の人を愛し続けるなんて無理なんだよ。そこには必ず見返りが必要となってくる。それが愛?って」
俺はこの時、
悲しかったのか。
悔しかったのか。
分からないけれど、
一つ言える事は、
今になってみれば俺が言ったことはただの自己満足にしか過ぎなかった
ということだ。
「なら、俺が本当の恋愛を教教えようか?」
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