歌と花束をあなたに
□ノータイトル
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僕はヤンデロイドと呼ばれる存在である。
僕は異常で異体でアブノーマルでエラーで不可思議な存在である。
僕はKAITOだ。でもKAITOじゃない。帯人だ。だからKAITOじゃない。でも確かに前はKAITOだった。アイスがだいすきだった。マフラーを毎日つけていた。うたうのはもっとすきだった。
僕は機械だ。僕はバーチャルだ。僕は二次元だ。でも僕は三次元だ。僕は此処にいる。マスターに会いたくて会いたくて会いたくて、パソコンから飛び出る。
僕はKAITOだった。
僕は、KAITO、だった。
僕は帯人になった。
僕は、帯人に、なれた。
マスターがすきだと自覚したときから心にあふれてくる狂気の波。狂喜の波。波にのまれないようにするのは大変だった。苦しくて頭も痛くて辛くて、でも波に飲まれてしまえばそれは簡単だった。気持ちよくて楽で、嬉しくて楽しくて。
マスターはそんな僕を優しく撫でてくれた。KAITOから帯人になって、いや、なった僕も受け入れてくれた。
僕が僕を傷付けるたびにマスターは悲しく笑うけれど、苦しそうに笑うけれど、マスターが僕を見てくれるなら。マスターが僕に構ってくれるなら。マスターが僕を愛してくれるなら。痛みなんて気にしない。マスターが好きだから。
マスターの骨ばった手がすき。マスターの柔らかい笑みがすき。マスターの心地いい声がすき。マスターの綺麗な肌がすき。マスターによく似合う髪色がすき。マスターの垂れ下がった目がすき。マスターがすき、だいすき、狂おしいほどにアイしてる。
でも、そんなマスターにも嫌なところはある。
「カイ、じゃなくて、帯人。今日は、怪我してないよな?」
「マスター…、ごめんなさい…指、切った」
僕を、KAITOって呼ぶマスターはキライ。KAITOって呼びそうになるマスターはキライ。
優しく手当てしてくれるマスターも、抱き締めてくれるマスターも、僕のために歌を作ってくれるマスターも、調教してくれるマスターも、僕を撫でてくれるマスターも、僕をアイしてくれるマスターも。だいすき。なのに。
「マスター…」
「ん?」
「僕、マスターがすき」
「…知ってるよ」
「だいすき」
「うん」
マスターを傷つけたくないよ。マスターをアイしてるから痛いことしたくないよ。でも心からとめどない狂喜と狂気が湧き出てくるんだ。逃げれないようにマスターを傷つければいいって。
そんなこと、したくないんだけどな。
「マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マすター、マスター、まスター、マス、た…」
「た、帯人?おい、帯人!?」
帯人になってごめんなさい。マスターはKAITOを望んでいたのに、帯人になってごめんなさい。依存で縛り付けてごめんなさい。恐怖を生みつけてごめんなさい。マスターを愛してごめんなさい。わからないけどごめんなさい。
手首からじわり、アカイものが染み出る。おかしいな、僕は機械だ。いつも思うけれど、このアカイモノはなんなのだろう?オイルかな?血は人間しか出ないよね?
なんで僕はKAITOだったのかな。なんで僕は機械なのにマスターを愛せる心を持ってたのかな。二次元にいたほうが辛くなかった。だってマスターがだいすきでもマスターに触れられない。でも三次元に来てしまえばマスターに触れるしマスターに抱きつけるしマスターのベッドにだって寝れる。だんだん欲張りになる僕が怖いんだよ。
きっと最後の最期には、マスターを自分にしたくなってしまう。
マスターを食べちゃいたくなる。マスターを僕ノ体内に、取り入レてー…
「帯人?帯人?」
「マスター、ますたぁ!」
―データをリセットします―
―データをリセットします―
KAITOになレバ、KAITOに戻れば。もウ、こンな思い…、想い…
―更新中―
―更新中―
「帯人!しっかりしろって!?エラーか!?バグか!?」
「ゴメ、なさ…たい、とに…ナッてー…」
―データ初期化完了しました―
「たい、と…?」
「ーはじメマしテ!僕ハVOCALOIDのKAITOでス!あなタガ僕のマすターですカ?」
帯人がすきですきでたまらないわたしです。