novel


共有
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同じ時間を過ごす事。

同じ風景を映す事。

すべての感覚を分け合う事。



だけど、それが完全であることは有り得ない。




共有




もうどれだけの時間、一緒にいるだろう。


幼かったあの日から再び出会って。


どれだけの季節を二人で過ごしてきただろう。



側にお前がいない時も。

俺はいつでも、お前の声を聞ける。

いつだってお前の笑顔と共にある。



そして。

底の無い感情を抱えてる。



どれだけ一緒に過ごしても消えることなく、薄れることなく湧き上がる感情。




愛しさ。





…時々怖くなる。



俺ばかりがこんな感情を抱えてるんじゃないか。




もしかしたら、そう感じているのは俺一人なんじゃないか?




どれだけ俺は。


お前の側にいる?




時間も、風景も、感覚も。



どれだけ一緒にいたとしても、完全に共有することはできない。



そのすべてを同じにしたいと願っても。


決して、叶う事はない。





俺たちは違う人間で。

違う心で。

違う鼓動を刻んでいるから。



だからこそ欲しくて。

どこまでも、愛しくて。


そんな矛盾を持て余す。



どれだけ、触れても。

どんなに近づいても。



すべてを共有できない。






そんな俺の想いに、お前は。




「共有するって…信じることじゃないかな」



確信があるように言うんだ。




手をとって。

抱きしめて。

体温に触れて。





「今この瞬間をあたしは、珪君と共有してるんだって。そう心から信じるんだよ」




心が命じるままに。





「そうして最後の隙間は、自分で埋めるの」



互いに、互いを。




「誰よりもあなたを信じることで」




共有する。




伝わる温もりも。



この抱えきれないほどの想いも。










…ああ、本当にそうだな。




足りなかったのは、信じること。




お前を。

自分を。



日々溢れる、この感情を。




「…すごいな、お前」


「へへ…それだけあたしが珪君を愛してるってこと、かな!」


「…自分で言って照れるなよ」


「う…」



喜びも、悲しみも。



俺が生きる時間は、すべて。


お前と共有していこう。



お前が俺を信じてくれるように。


俺がお前を信じていく。




それはきっと、俺の命が尽きるまで。



そう信じて。


今この瞬間に溢れる愛しさと共に。



腕の中の温もりを抱きしめた。





→あとがき


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