novel


すべからく、恋は。
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2階の教室から窓の外を眺めながら、奈津美が不思議そうに言う。


「ねぇ?あの人のどこがいいわけ…?」



そんなこと。
私自身だってわからないのに。





すべからく、恋は






「どこって…」


「例えば一般的にはー。顔とか、性格とか」



正直に言えば。

あの人自身まるごと、なのだ。

『どこが』なんて単位で聞かれても。




「…全部?」





「…何あんた、惚気てんの?」

「そうじゃなくて!」



だって、気が付いたらこうだった。

いつどこをなんで好きになったのかなんて。

そんなのわからない。



何よりどこが好きだ、なんて答えられるほどあの人を知っているわけでもない。


ただ、いつも心を占めるのは。

…あの人で。



つまり、この感情をこう呼ぶのは間違いない事実。


「恋って、そういうものじゃないの?」

「ま、否定はしないけどさ。そう大真面目に答えられるとね〜」


リアクションに困る、と奈津美が苦笑する。


「何でよりにもよって、あの人なの?」

「そんな言い方ないよ!」

「いや、ごく普通の疑問でしょ…」

「どうして?!」

「どうして…って…」


言いながら、視線が中庭の花壇へ流される。


その先には。


丹精込めて育てた花に水をやる、あの人の姿。


「…私には持ちえない感情だから、聞きたいって言うか…興味があるって言うか?」

「うん、奈津美は持たなくていいよ」

「いや、だからさ、聞きたいじゃない?その『恋』の真相」

「だからさっき言ったでしょ?全部!」



そう話した、直後。

あの人が振り返る。

途端に全身が反応する。

これってもう条件反射だろうか。


あの人がこっちに気付いて、笑顔で手を振ってる。

手を振り返しながら、うずうずする。

ああ、もう、じっとしてられない!


「ごめん、奈津美!私行かなきゃ!」

「はいはい、いってらっしゃ〜い」

「今そっち行きます!!待っててくださいね!!!」


2階の窓から大声で伝えたら、笑顔でひとつ、頷いてくれた。


たったこれだけのことにここまで単純に反応するのに。


改めて理由や定義が必要なんだろうか。



私の足はただあの人に向かって動くだけだ。

一分でも一秒でも早く、あの人に会うために。








「あ〜あ〜あ〜、笑顔全開。嬉しそうな顔しちゃってさ。誰が見てもあれじゃバレバレだよね〜?」

「それだけ、彼女の気持ちが本物だってことでしょう」

「そりゃそうだけどさ…じゃあ志穂にはあの子の気持ちわかるワケ?」

「それはまた別でしょう」

「…だよね?」

「好みなんて人それぞれ違うわ」

「盾食う虫も好き好きってやつ?」

「…蓼よ、それ」

「あれ、そうだっけ?」

「結局、恋愛なんて割り切れるものじゃない。そういうものなんじゃない?」

「まあね…。まさか、理事長が好きだなんてね。マジで割り切れないわ、あたしには」




窓の外で薔薇を手に微笑む友人を、2人は静かに見守る。

…彼女の心境だけは計り知れなかったが。



「しかたないね」

「そう、しかたないのよ」





なぜなら。


すべからく恋は、落ちるべきものだから。





→あとがき


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