novel


夏の終わり、秋の始まり
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数日前までは9月とはいえこれでもかというほどに残暑が厳しかったのに。

ふと気が付いた時には、夏がその姿を消していた。


過ごしやすい気温。

暖かく控えめな日差し。

中央公園には、すでに秋の気配が漂っている。


そういえば。

今週末には空に中秋の名月が浮かぶ。

時間が過ぎるのって早いんだなぁ。




夏の終わり、秋の始まり




大学生の夏休みは中高生のそれよりもずっと長い。

加えて、金銭的にも年齢的にも色々な場面で自由が利く。


だけど。

夏休みが始まる前にあれもこれもと考えていた夏の計画は、そのほとんどが計画倒れに終ってしまった。

この夏にした事と言えばバイトに精を出したくらいで、それも意外と忙しく…。

過ぎていく夏の気配に、秋の訪れに、今になってぼんやり気付くぐらいに。


大学生の長期休みといえばやっぱり旅行〜…って思ってたんだけど。


彼氏の都合でそうもいかなかった。
人気者の彼氏を持つのもなかなか大変だ。


秋色に着替える散歩道の並木。

その間をゆっくりと歩きながら、思いを馳せる。

高校の同級生で…幼馴染の彼。

大学生とファッションモデルの二束の草鞋な彼は、大学が休みに入る夏はいろいろと書入れ時らしく、忙しく仕事をこなす彼に「旅行」の二文字は出せなかった。


…自業自得なんだけどね。

高校卒業を期にモデル業を辞めたいと話す彼に、続けることを進めたのは他でもない私だ。

正直にもったいないと思った。

彼の将来の目標のためにも業界に繋がりがあることはけしてマイナスにはならないはずだと考えたから。

そう説得する自分に、彼は真剣な顔で言った。


「…でも、お前といる時間が少なくなるだろ?…そうなるぐらいなら俺…仕事辞める」


何よりも大切なのはお前なんだとばかりの台詞を恥ずかしげもなくさらっと口にした彼に、聞いてるこっちが赤面した。


私だってそれが解らないわけじゃなかったけど。

自分のために彼が可能性を少しでも狭めてしまう事は避けたかった。


…私が心配しなくたってもともと才能と可能性に溢れた人だけどね。

結局、彼は渋々ながらも了承して…今に至る。



大学生の夏休みの定番、旅行は無理だったけど、でも土日には無理にでもお互いに時間作ったからいつもどうり会えたし。

浴衣で花火。

海。

遊園地デート。


高校生の頃とあまり代わり映えはしなかったけど、それなりに夏は満喫できた。


今だって、待ち合わせしてるわけだし。

ただ一週間ぶりでちょっと、張り切って早く着いちゃったけど。


ゆっくり散歩しながら、秋の訪れにつられて物思うのも悪くない。


長かった夏休みもあと少し。

大学が始まれば、彼とは毎日会える。

10月末には大学祭もある。

終わる夏はもの悲しいけど…秋も嫌いじゃない。


こんな風にゆっくり過ごせる日は久しぶりで、自然と気持ちも穏やかになる。

足取りも軽く約束の時間よりも早く待ち合わせ場所に着いた。

…はず、だったんだけど。


そこにはすでに見慣れた彼の姿があった。


あわてて走り寄りながら声を掛ける。

「珪君!」

すぐに振り向く背中。


「あ…久しぶり」


一週間ぶりの、笑顔だぁ。
些細なことに感動しつつ。


「遅れてごめん。私もしかして時間…間違えた?」


言いながら腕時計を確認する。
針はきっかり14時10分前を指していた。

約束を聞き違えていなければ、私は早めに到着したはずだ。

焦る私を前に珪君が緩く首を振る。


「間違えてない。時間どうりっていうより…早いくらいだな」

「だよね?…珪君も早く着いたんだ?」

「…なんか、家にいても落ち着かなくて。いい天気だし、散歩しながら来た」

「あ、私も同じ。なんかいいよね、今日。デート日和だよね」


秋の一日。
今日のこの空気を共感しているようで嬉しくなる。


「それに…早く会いたかったから」

「あ、うん…。私も」


二人顔を見合わせて笑った。




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