dream


はじめの一歩。
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質問の答えに、ちょっとびっくりした。

氷上くんに質問したのは私自身なんだけど。


将来の夢。

返ってきたのは堅実な、というか彼なら確実にこなすだろう、将来設計。



私は今まで特にそういうことは深く考えずに生きてきたから。

正直カルチャーショックというか、なんというか。



これって……焦り、なのかな?






はじめの一歩。






考え込んでいたら、ついついお風呂で長湯をしてしまった。

熱くなった身体を覚ますために、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。

冷え冷えのを一口、飲んでから。

コップを持って自室に戻った。



−−今日のデート帰りのこと。

なにげなく聞いた、彼の将来の夢。


氷上くんから返ってきたのは夢というよりももう、将来設計そのものだった。



まず一流大学合格後、天体物理学を履修して、大学院進学。

大学院生のうちに博士号取得。

その後海外留学…たぶんアメリカかな?

留学先の大学でも博士号を取得して、日本に帰国。

宇宙研究機関に所属だから…JAKUSAかな…。

すごい発見をしてノーベノレ賞受賞……すごい発見に関してはまだ未知数だけど。




そのために氷上くんは日々の努力を惜しまない。

期末試験はいつも上位3位圏内だし。

大学でも入試トップで入学とかありえる話だよね。


そして。

さらに先を見据えている。





…………じゃあ、私は?


生徒会。
アルバイト。
勉強…。

どれも手を抜いているつもりはないけど、この先の明確な目標って聞かれると、答えの持ち合わせがない。


バイト経験を活かしてバリスタ?
でも私には佐伯くんみたいな情熱はないし。

大学行って、教員免許とか。
安定の公務員職、なんていうけど先生って柄でもないし。

コピー取りがうまいって言われたし、無難にどこかの商社でOL…。



お風呂上りのストレッチをしながら、あれこれ考えてみるけど…やっぱりピンとこない。


これって普通?
それとも高校2年生にもなれば将来って自然と見えてくるものなの?


高校進学のときは転校も兼ねててバタバタだったから。

先々の進路がどうとか、考えてる暇もなかった…ううん、あってもそんなに考えてたかな?
とりあえず進学校だからっていう程度に考えて選んだんじゃなかったかな。

もちろん、羽学を選んだことに後悔はないけど。




私と違って、氷上くんは。


天体観測が趣味で、好きなことを仕事にって考えてる。

将来設計も納得できる。



好きなこと。

やりたいこと。

なりたい、自分。



「…見えてこない。」



私なんて精々、夕ご飯美味しかったな、とか。

今日のデート楽しかったな、とか。


そんな風に毎日を過ごすばかりで。



一通り、ストレッチを終えて。

コップの麦茶と一緒に、もやもやを一気に飲み込む。



「とりあえず。」



今考えても答えが出ないから。
出ないものはしょうがないとして、寝てしまおう。

それで、明日。
行ったことないけど、進路指導室にでも行ってみよう。

なにか資料とか見てたら見えてくるものもあるかもしれないし。

早々にベッドに入って、布団をかぶった。



だけど、なかなか寝付けなくて。

朝が来るのがすごく遠く感じた。







−−−翌日。

放課後に若王子先生に進路指導室について尋ねた。

特に許可や申請は無しで入れるけど、資料の持ち出しには許可が要るね、と言われて。

「進路相談が必要な時はいつでも言ってくださいね。僕でも役に立てることがあると思いますから。」

いつものように柔らかく微笑んでくれたけど。


先生、相談以前に相談内容が見当たらないんです、とは言えなかったから、はいって返事だけしておいた。




−ー職員室の近くに構えられた進路指導室。

初めての場所にどきどきしながら、なんとなく、そろっとドアを開ける。



…誰も居ないみたい。



教室内には図書室と同じ机とイスが、2組。

スチールの棚には、パイプファイルがぎっしり詰まってる。

就職向け資料に、各大学の募集要項なんかの資料。

センター試験過去問題集、大学入試過去問題集も並んでいる。



何から手を付けたらいいのか迷って。

とりあえず氷上くんの第一目標、一流大学のファイルを手に取ってみる。



文系…理系…学部だけでもいろいろあるんだなぁ。


ええと…たとえば。

氷上君が行きたいのは天体物理学だから…理工学部、か…。


ペラペラと資料をめくって見る。

当たり前だけど、やっぱりピンとこない。

どっちかっていうと私、文系だしね。
国文学科、とか?


じっくり見てみようと、ファイルを手にイスを引いた時。



「失礼します!」



びしっとした一声と共に、氷上くんが扉を開けて入ってきた。




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