dream


フジノヤマイ
1ページ/3ページ




たとえば、私が仕事をミスった時のさりげないフォローとか。

毎日聞くしょうもないギャグとか。
笑顔とか。
なんだか大分はまってるらしい私がいた。



フジノヤマイ




それに気が付いたのは本当につい最近のこと。

学校で、バイト先で、見つけたその姿に勝手に笑う自分の口元。


おかしいな。
こんなはずじゃなかったんだけど。



第一印象は「なんか軽そうな男の子」だった。

少し日に焼けた肌と、着崩した制服。

聞きなれない関西弁とイマイチなギャグが更にその印象を強くして。



同じガソリンスタンドのバイトを選んだと知った時には、どうしようか少し考えるぐらいだった。

それぐらい、自分との接点はあまりない人だろうと思った。



そんな私の予想は大いに甘かった。



彼はそんなに単純な人ではなかったのだ。



知れば知るだけ、変化していく印象。



日に焼けた肌は日々のバイトのせいだった。

先輩からもらった、まだ乗れないバイクを大事そうに整備してたり。

自分でお弁当を(それも意外なほど美味しく)作ってたり。


何か事情があって一人暮らししてたり…。




実際の彼は私なんかよりもずっと大人だった。


そうして彼の断片を知るほどに自分を恥じた。


見せ掛けだけの印象ですべてを決めてかかった自分を。



同時に、意識はただ彼に向かっていった。




今もそう。
どうしたって目が勝手に彼を捉えてしまう。



学校では見たことないような真剣な表情で、窓ガラスを磨く彼。

いつでもいつもそういう顔をしててくれたらいいのに。

そしたら誰も「軽そうな男の子」だなんて思わないのに。


「ありがとうございましたー!!」


彼はキャップを取ってふかぶかと頭を下げ、一台の車を見送る。


戻ってきたらもう、いつもの顔だった。

もっと違う顔が見たいのに。

私に見せて欲しいのに。



ぶつかる視線。

笑う彼。

「なんや?真剣な顔して?」

笑って応える自分。

「いやいや。仕事中の真面目な顔は、きりっとしてていい男だなぁって思って」

「お?ちゅーことは…とうとう俺に惚れた?」


女の子なら大抵の子が見惚れるようなその笑顔も、けして嫌いじゃないんだけど。


「いやいやいや。そんなドヤ顔しなくていいから。単に事実を述べただけだよ?」

「ジブン、相変わらずつれないなぁ」


むしろその苦笑いの方がいいかもしれない。


「えー、いいじゃん誉めてることには変わりないんだよ」

「へぇへぇ、ど〜もぉ〜、おおきに〜」


わかりやすくがっかりしてこっちに向ける、大きな背中。


「ほら姫条くん!お客さま!行こう!」


いつもどおりに声をかけて、少しだけ力を込めて彼の背中を叩いてみる。


「痛っ!背骨折れる〜」

「そんなやわにできてないからだいじょうぶ〜」


いつもどおりの掛け合いに二人で笑う。


ささいなことが嬉しくて。



ああもう。
これは、重症です。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ