dream2
□熱
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窓から射し込む光を感じて、浮上する意識。
目を開けるて映るのは、いつもの天井。
いつもの…。
そう思う自分に感じる、違和感。
ここは私の部屋で。
ベットで。
だけど、違う。
何かが違う。
そうだ。
ここは。
鴎外さんのお家の、私に与えられた部屋で。
私の部屋じゃない。
視界の天井を避けるように再び目を閉じる。
目を開けて見える天井が、あのいつもの部屋の天井だったらいいのに。
暗い視界の中、望みを抱く。
そんな私に、ふんわり触れる柔らかい感触。
優しいそれに、いるはずのない人を呼んでしまう。
「…おかあ、さん…?」
声に出して呼んだことで、もしかしたら全部、今見た現実は、全部。
夢だったのかも、しれない。
そう期待を込めて持ち上げた瞼の向こう。
そこに居たのは、春草さんだった。
熱
ああ、やっぱりそうだよね。
現実は現実だ、と納得しながら。
本来この部屋にいるはずのないその人に。
「…春草、さん。どうして、ここに…?」
身体は起こさずに、目だけ動かして問いかけた。
「…成程ね」
「……?」
「最初の日以降、君が寝坊したことはなかったから。降りてこないと思って来てみればやっぱりだ」
何かにひどく納得しているらしい様子の春草さんに、疑問符しか浮かばない。
何がやっぱりなんだろう、とぼんやり考える。
額に触れた掌はそのままに、眉間に皺を寄せて苦い表情の春草さん。
なんだろう、なんか春草さんの掌、冷たい。気持ちいい。
「熱があるよ、君」
間を置かず告げられたそれにすぐには反応できなくて。
「熱……私が、ですか」
「他に誰がいるの」
「そう、ですね…」
それで、額に春草さんの掌があって。
冷たくて気持ちいいんだ。
額にかかる前髪を分けながら、熱を奪うように当てられる掌。
「…ごめん、俺がもっと早くに気が付けば、鴎外さんが出掛ける前に看てもらえたのに」
「私が勝手に…熱出した、だけで…春草さんは、何も…」
熱がある。
そう意識しただけで急に体内の温度が上がるような感覚がする。
視界がゆらゆら、する。
春草さんの、心配そうな、顔が、ゆらゆら、揺れる。
揺れ、る、視界。
目を、開けて…いられ、ない。
「ごめ…なさい…もう、少し…」
今は。
眠り、た…い。
「うん、分かったから」
春草、さんの…こえ。
とお、い。
「おやすみ、芽衣」
そのまま、意識が途切れた。