特殊警吏隊士 海宝紫
□壱
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空は快晴。見事な青空だ。
こんな日は外に出て、公園でも野原でも海にでも行きたくなる。
行きたくはなるけど…僕にそんな暇はない。だって、僕はこれから仕事だから。
朝の通勤ラッシュ時、僕は大通りの歩道を走っていた。
ラッシュ時と言っても、ここの通りはさほど混んでない。
僕は海宝 紫(かいほうゆかり)。薄手のパーカーにボーダーのTシャツ。
ヴィンテージのジーンズに、人気ブランドの五年もののスニーカー。
小さなリュックを背負った僕は、どこにでもいるような平凡な男さ。
でも、僕が勤務している職場はちょっと“普通”じゃない。
警吏庁(けいりちょう)――町の平和と安全と秩序を守り、犯罪の予防や事件の捜査・解決、犯人の逮捕などを職務としている機関で、警吏庁に所属している人たちを警吏隊(けいりたい)と言う。
僕はその警吏隊士なんだ。職業は何かと訊かれて、警吏隊士だと答えると、誰もが顔を綻ばせる。
けど、部署はどこかと訊かれて答えると、誰もが決まりの悪い顔をする。
別に、その部署がいけないわけじゃない。ただね、そこに所属しているヒトたちが、ちょっと“特殊”なだけで……
僕は前方に見えた黒い建物に入っていく。ここが僕の勤務する警吏庁総本部。
警吏隊の中でも超エリートが集まる、警吏庁の中枢だよ。そう聞くと、結構すごいでしょ。
――まあ、だからってエリートしか入れないわけじゃなく、ここ、王都・宝生(ほうじょう)の警吏庁はこの総本部しかないから、宝生で警吏庁に入るとしたら、必然的にここに入るしかないんだけどね。
中に入ると、赤い隊士服を着た人たちがたくさんいる。
僕に気づいて挨拶してくれる人に挨拶を返し、左手の通路を通って別棟に行く。
それから中庭を通ってさらに奥。別棟とも切り離された一つの建物。
警吏庁の敷地の中で、孤島のようなこの建物。ここが僕の所属している、警吏庁刑事部特殊課。
その入口に立っている警備員(ガード)のヒューマノイドに、IDカードを見せる。
「おはよう!」
「おはようございます」
ヒューマノイドは僕の顔とIDカードを一瞥すると、無表情でぺこりと軽く頭を下げる。
ヒューマノイドは人間とほとんど変わらない外見をしているけれど、実は機械でできた人形なんだ。
彼らは大まかに業務用と家庭用に分かれていて、業務用はあらゆるところで警備員(ガード)や職員として活躍している。
家庭用は、一般家庭に家族の一員として受け入れられているんだ。