特殊警吏隊士 海宝紫

□伍
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 藍泉歴二〇〇八年、春。
 警吏庁総本部内で話題を呼んでいる男がいた。 
「おい、聞いたか? 今年入った新人の中にすげー奴がいるんだってよ」
「ああ、筆記、実技ともに歴代トップなんだって?」
「その人がね、すっごい背高くてスラッとしててカッコイイのよ!」
「しかも噂だと、王族なんだってよ」
「キャーッ、じゃあもしお近づきになれたら玉の輿!?」
 噂は総本部すべてに広まっていた。そして話題の当本人はというと…
「まったく、どこから聞きつけたのやら。確かに僕は王族だよ。
 でも、自慢じゃないけど、僕は実家からあまりいい目で見られていないんだ。だからいろいろ期待されても困るんだよね〜」
 黒髪に灰色の切れ長の瞳。彼は肩をすくめ、大仰にため息をついた。
「警吏隊に入ったのだって、実家の連中に目にもの見せ…もとい、僕が本当はできる人間だって驚かせるためなんだからさ。ねぇ、柾周?」
 後方を振り返って、青年は付き従う少年に同意を求める。
 黒髪に細い茶褐色の瞳を持つ少年は、無表情でただ「はい」とだけ返した。
 少年は天刻柾周、十六歳。青年は汐見柳太郎(しおみりゅうたろう)、十八歳。
 彼らは今年、警吏隊に入隊した新人警吏。
 天刻家は汐見家に仕える一族で、天刻は汐見の問題児と言われる彼の従者である。
「もう〜、ほんとかったるいよ。実技は楽しいけどさ、講義とか超眠くなるし。
 それにみんな勘違いしてるよ。実技も筆記もトップだったのは、僕じゃなくて柾周なのに」
「柳太郎様だって三位だったではありませんか」
「あんなのまぐれまぐれ〜。ちょっとヤマカンが当たっただけだよ」
 後頭部で手を組んで、柳太郎はどうでもよさげに言う。天刻は小さくため息をついた。
 警吏隊の試験はレベルが高い。ヤマカンでも三位の成績を取れたなら充分頭がいいのではないだろうか。
 それでも名門の汐見家の中では落ちこぼれなのだ。
 彼にはたくさんいいところがある。そりゃあ、面倒臭がりだし飽きっぽいけれど、子供や老人には優しく、弱い者を助けようとする義侠心がある。
(どうして周囲の人間はそれを解ろうとしないんだ)
 天刻が苛立ちを募らせていると、さらに苛立たせる者が現れた。
「そこにいるのは我が汐見家一の問題児君じゃないか」
 二人が振り返れば、黒い長髪を三つ編みにしている銀縁眼鏡の青年。
 柳太郎は「出たよ…」と苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「まったく、真実を知らない奴らはお気楽だな。こんな奴が歴代トップの成績を取るわけないじゃないか」
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