エデンクロス

□愛する君への願い【マジカル☆ラビリンス】
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「ああ、新作はSF要素を取り入れてる。今までの現代物と違ってかなり手探り状態だけど、明衣子がいろいろ資料を集めてくれたからなんとかいけそうだよ。ありがとう」
「役に立てたならうれしいわ」
 笑顔を見せる明衣子に、渡羽は照れたように頬を掻いた。
 今度の新作は、藍泉(あいずみ)で毎年行われている皇族主催の芸術品評会に応募することにしている。
 その品評会にノミネートされれば、それだけでもかなり評価が高く、注目を集めること間違いなしだ。優秀賞を受賞すればなおさら。
 渡羽はこの品評会に賭けていた。なぜなら、とある一大決心をしていたからだ。
 数年前から何度も、家族や友人などから問いかけられた言葉。
「明衣子」 
「ん?」 
 コーヒーを飲んでいた明衣子は微笑みながら小首を傾げた。
 渡羽は緊張した面持ちで、じっと正面から明衣子を見つめる。
 真剣な渡羽の顔に、明衣子はどきっとしてコーヒーカップをソーサーに置いた。
「もし…次の品評会に新作がノミネートされたら……」
 言わなくては。ずっと決めていたこと。でも、いざとなると緊張して言葉が出てこない。
 渡羽は顔を赤くして俯いた。言わないといけないのに。ずっと待たせてるんだから。
 けれど、不安が募る。賭けが成功するとも限らない。そもそも、明衣子が受け入れてくれるかどうかも。
 明衣子の気持ちは分かっているけれど、他にもっと不安があって。
 やっぱり言うのをやめようかと思った時だった。視界の隅に、三角帽子を被った小人たちが入ってきた。
 彼らは妖精で、普通の人間には見えない。渡羽は“霊視(たまみ)”能力者なので見ることができる。
 小説家デビューをして家を出た時についてきた、渡羽の小さな友人だ。
 小人の一人が頭上に掲げている黒ずんだ小箱を見て、渡羽ははっとした。
 小人はずいっと小箱を渡羽に差し出し、にこっと笑った。頑張れ、と言ってくれているのだろう。
 いつでも勇気をくれた小箱。その箱をくれたのは、渡羽にとってただひとりの最愛の女性(ひと)。
 彼女を想うからこそ、決意した。渡羽は小さく頷き、顔を上げた。
「明衣子。次の品評会で俺の新作がノミネートされたら――結婚しよう」
 明衣子の目が緩やかに見開かれる。渡羽はそっと、明衣子の手を両手で包み込んだ。
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