光と闇の輪廻(サンサーラ)

□第7廻
2ページ/13ページ

「いつまでも過去を顧(かえり)みて…過去にしがみついて…っ。こんなことを続けていてもキリがな
い! むなしくなるだけだ! 後悔することになるぞ!! そうなる前に…」
「――過去にしがみついているのはお前も同じだろ?」
「!」
 びくっと響は肩を震わせた。相模は蔑(さげす)みを込めた目で、響を上目遣いに見上げる。
「普段は平静を装っていても、その話題が出るたびに昔のことを悔やんで、自分の殻(カラ)に閉じこもる。そんな奴が言えた義理か?」
 相模の一言一言が響の胸に突き刺さる。俯き、震える声で響は言う。
「……俺のことは、どうでもいいんだ。とにかく高天には、手を出すな……」
「やけにあの女の肩を持つな。そんなにあの女が大事か? ――麗美(れみ)よりも」
「麗美と高天は違う。ただ…」
『あ、碧君の役に立てるなら…っ、私、なんでもするから!』
 ころんの言葉を思い出し、響は自分の無力さに――情けなさに打ちひしがれる。
「ただ……」
「ただ、なんだよ」
 相模の瞳が冷えていく。氷の杭で心臓を貫くような、痛みと冷たさ。
「高天は…偽善じゃない…本当の優しさを、くれるから……」
(こんな、俺と違って)
 相模はどうでもよさそうに頬杖をついた。
「まあ、あの女から手を引いてやってもいいけど……」
 期待して顔を上げた響に、希望を打ち砕くような言葉が浴びせられた。
「――その代わりに、今度は麗美を狙うぜ」
「なっ……」
「それでもいいなら、あの女から手を引いてやるけど?」
 冷え冷えとした瞳には、なんの感情も浮かんでいない。いや、一つだけ。女に対する憎悪だけが、氷の中で燃えている。
「…っ、それだけはやめてくれ! 麗美には手を出さないでくれ。麗美だけは…っ」
 守らなくては。相模が誰を傷つけようとも、見て見ぬふりをしてきた。
 止めるべきだと知っていても、協力してきた。失いたくないから、甘受した。
 でも、一人だけ、どうしても守りたい人がいる。どんなことをしても、麗美だけは。
「頼む……」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ