光と闇の輪廻(サンサーラ)
□第8廻
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重く垂れこめた灰色の雲から降り注ぐ雨。
だが、魔力で雨粒を弾いているので、濡れることはない。
碧家上空で、スレイドはぼんやりと空を見上げながら片膝を立てて座っていた。
眼下の家にころんがいる。友人の家だそうだが、さして興味はない。
約束だからついてきたが、何かすることがあるかと問われれば何もないので、こうして暇を持て余している。
そう。約束。彼は彼女の母親に頼まれた。この子を守ってほしいと。
「まったく、あんなことを言われようとは思いもしなかったぞ」
低い声は自嘲気味ていて、口が笑みの形に歪んだ。
事あるごとに思い返す。なぜ自分がこんなことを? と。
答えは決まっている。それは“契約”だから。悪魔は“契約”に弱いのだから。
ただ、通常とは違う理由なので、もしも一族の誰かが知ったら馬鹿なことを、と嗤うだろう。自分でも愚かだったと思う。
まさか自分が、人間が成長していく過程を見守ることになるとは思わなかった。それもこれもあの母親のせい。
けれど嫌ではないし、悪いものではないと思っている。
そんな考えは、人間をただの糧(かて)としか思わない悪魔にしては、あるまじき考えなのかもしれないが。
あの娘には重い運命が待っている。それは、初めて会った時に分かっていた。
けれどそれがどういったものかまでは分かっていなかった。あの少年を見つけるまでは。
柳原という名の少年。あの少年は、自分がよく知る者に似ている。そしてあの娘も。
もし、二人の出会いが偶然ではなかったのなら。
「あの悲劇が繰り返されるのだろうか……」
ぽつりと呟いた時、清浄な波動が高まるのを感じたスレイドは、はっと眼下を見下ろした。
(これは…娘の力の封印が解けかかっている!)
これほどの波動、これでは奴らに気づかれる。スレイドは自身の魔力を強めた。
普段、スレイドはころんに気づかれないように、ころんを魔力の膜で覆っている。
そうすることによって、ころんの存在をある者たちから隠していた。それがカーレンとの“契約”。