光と闇の輪廻(サンサーラ)

□第2廻
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 ころんはカバンからペンケースを出し、机にしまう。その時、響(ひびき)が席を立った。
「あっ、碧(あおい)君!」
 思わず声をかけるころん。気づいて響はころんを見下ろす。
 本人にその気はないのだろうが、ころんは睨まれた気がして、つい謝ってしまった。
「あ……ごめんなさい」
「なんで謝るんだ? 謝られるようなことはしてないぞ」
「あ、そうよね、ごめんなさ…じゃなくて、そのっ………また明日ね」
 ぽそっと言われ、響は目を瞠(みは)った。
「……」
「あっ、それを言いたかっただけなの! 引き止めてごめんなさい! って、また謝っちゃった…っ。えと…その……」
 わたわたとうろたえるころん。響は無言で背を向けた。
 怒らせてしまったのかと、ころんは不安になる。が、予想に反して、響は背中を向けたまま、たった一言「また明日」と言って、教室を出て行った。
 響はいなくなってしまったが、ころんの頭の中は響でいっぱいだった。
 一目ころんを見ようと、他のクラスからやってきた男子生徒たちの、視線や声も気にならないほどに。
 そんな二人を、相模(さがみ)はカバンを肩に乗せ、睨み続けていた。


「はぁ…」
 空を見上げたまま、ころんはため息をついた。
 本当は紗雪(さゆき)と一緒に帰る予定だったのだが、一人で帰りたい気分だったので、紗雪を説得し、一人で帰ることをなんとか許してもらった。
 学園を出てからというもの、数メートルごとにこうしてため息をついている。
 原因は響である。いまだにさっきのことが忘れられないのだ。
(碧君……なんで碧君のことが、頭から離れないんだろう。
 碧君のことを考えるとどきどきするし、顔が熱くなる。もしかして、これが恋…なのかな)
「はぁ。――!」
 頬を押さえてため息をついた時、背後に生まれた違和感。距離は遠くも近くもない。
 ころんがちらりと横目で後ろを見ると、エアバイクを手押ししている少年が一人。
 ころんはカバンの取っ手をぎゅっと握りしめ、歩調を速める。同時に背後の少年の動きも速まる。
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