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□moments
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「勘違いしないでくれ」

彼が顔を上げた。

「おまえのことを愛しいと思ったことなど、一度もない」

言った自分の心が焦げ付いて、焼けるにおいがした。

「べつにいいよ」

彼は笑んで、そしてその頬を、桜の花弁がすべっていった。

「探しに行くよ、その人を。」

桜が、美しかった。

moments


バートは十四回目の誕生日を迎えた頃だった。
リサもマギーも大きくなって、もうお兄ちゃんだから我慢しなさいとか
そういうことを言われることもなくなった。
二人の妹はそれくらい出来がよかった。バートは一番の落ちこぼれだった。
それでもなんとか両親の気を引こうと、いらずらは続けていた。
そのたびに校長や先生、家族に怒られても、彼は飄々としていた。
嫌われても見捨てられてもよかった。だって、彼にはボブがいた。犯罪をやめて
南の国に住んでいて、夏になると帰ってきて自分と愛し合ってくれる恋人がいた。

夏になるとバートは彼が帰ってきて、夜中に自分の部屋に忍び込んでくるのを
心を躍らせながら待つようになった。ボブは本当に隠密行動が上手で、気を抜くといつのまにか
枕元に立っている。そしていつも「ハロー、バート」と甘い声で囁いてくれる。
腰から力が抜ける響きで。バートが骨抜きになったのを見ると、ボブはバートを抱き上げる。
そして窓からひらりと外に抜け出して、その夏の素敵な別荘に連れていってくれるのだ。

今年もバートは、ベッドに寝転びながら彼を待っていた。
だが、彼は来なかった。今日もこなかった。昨日もこなかった。
実はもう、夏は終わってしまっていた。とっくに夏休みも、終わっていたのだ。
それでもバートは待ち続けた。自分を認めてくれる、理解してくれるただ一人の人を
待ち続けた。そんなバートを見ていたリサが、何度も「ボブはもうあなたのところにこない」
と忠告したが、バートは聞かなかった。ボブから届いた手紙を見ても、納得しなかった。
その手紙には、はっきりと「以前のように君を慕えなくなった」と書いてあったのに。

そんな生活をしていると、やがて両親がやってきた。そして彼に二つの選択を迫った。
学校に行くか、閉鎖病棟に入るかどちらかを選べ。
両親の顔は冷たかった。バートはやっと、両親が自分を見てくれていたのはいたずらばかり
していたからであって、ただの落ちこぼれにはなんの興味もなかったのだと気付いた。

久方ぶりの学校は、冷たい感じがした。教室で一人座っていると、クラスメイトの笑い声が
響いて、それが自分を笑っている声のように思えて、ひどく嫌な気分だった。
耐えられなくなって教室を出ると、どこもかしこも他人だらけだった。
そうなのだ、ミルハウスもネルソンもマーティンもみんな、別の学校に行ってしまった。
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