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□moments
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何処へも行きたくなくて、何も見たくなくて、初めて学校に来た時のようで
それを認めたくなくて、バートはひたすら暗くて静かな場所を目指して闇雲に歩いた。
だが廊下は行き止まり、ここは学校の隅っこ、忘れ去られた空間だ。目の前には陰気な
扉だけがある。プレートを見ると、電算室とだけ書いてあった。誰も使わない、予算対策の
ためのコンピュータールーム。バートは取っ手に手をかけた。開いた。

その部屋は薄暗くて、そして丁度いい室温だった。大きなスパコンが並んでいて
その先に管理用だろうか?コンピューターが一台置いてある。
バートは自分が導かれるような錯覚に陥った。コンピューターの電源を入れると
それはきっちりと起動して、二世代前のOSを立ちあがらせた。

”ハロー、名前を入力してください”
バートは出てきたダイアログボックスに、素直に名前を打ち込んだ。
コンピューターが無機質な声で、それを読み上げた。
「ハロー、バート」
その言葉を、いつから聞いていなかっただろうか。
俺はたったそれだけを聞きたくて、いろんなことをしたのに。
手紙一通で、さよならだなんて。

バートはそれから、その電算室に入り浸るようになった。
ある時は休み時間に、つまらない授業の時はバッくれた。
やがてインターネットの使い方も覚えた。そして小さなチャットルームを見つけた。
失恋に関する悩みを打ち明けるという趣旨の部屋だった。バートはそこに入って、
初めてネットで人と会話した。

「こんちは、僕はBSといいます。仲間に入れてもらえますか?」
返事は二分ほどして帰ってきた
”こんにちは、BS。あなたも失恋をしたんですか?”
「はい、そうなんです。長年僕を追いかけてきていましたが、ある日突然手紙が来て
別れを告げられたんです」
人が数人入ってきた。ログを見て、口々にひどいなどと言い始める。
そうか、ボブはひどい男だったのか。バートは純粋に、彼らの言うことを信じてしまった。

やがてバートは、部屋の住人達といろんな話をした。
失恋の話はもちろん、好きなアニメの話、テレビの話、知っている人の話。
バートは夢中になって文字を打ち込んだ。誰かが自分の話を聞いてくれることが
こんなにうれしいことだとは思わなかった。
やがて、バートは自分が思っていることも打ち明けるようになった。
住人の反応が悪くなったのは、そのころからだった。

バートはずっと悩んだ。大好きな人達だったから、嫌われるのが怖かった。
やめることも、選択肢に入れたくなかった。でも、ついに耐えられなくなって
バートは文字を打ち込んでしまった。

「ねえ、俺のこと嫌いになった?」
”そんなことないよ^^”
「蔭では、俺の悪口言ってるんじゃない?」
答えは返ってこなかった。
その次の日も、その次の日も帰ってこなかった。
その人が興味がありそうなことを書いても、何の反応もなかった。
だれも、おやすみもおはようも言ってくれなくなった。
自分のログを見返した。
全部自分のせいだとわかった。


きっと、家族も
きっと、友人も

きっと、彼も、こんなふうに。
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