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□moments
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春の暖かい、でも、薄寒い風が吹く日だった。
サイドショー・ボブは桜の咲く、スプリングフィールドでもめずらしい公園に来ていた。
桜の花がひらひらと落ちて、それが綺麗だとは思わなかったが、嫌いではなかった。
ここに来た目的は、とくにない。セシルには会ったが、それでもそれだけだった。
そう思い込みたかった。本当の理由は、考えたくなかった。

来る途中で買ってきた、まだあたたかい紙カップのコーヒーをすする。
公園は静かで、でもどこかで声がしていた。誰かがいるのだろうか?
奥に進むと、桜並木の中の一本の木の下で、子供がしゃがんでいた。
そして地面を見ながら、なにかをしゃべっていた。近づくと、その子は金髪だった。
そしてオレンジ色のパーカーと青いジーンズをはいていた。

「オレ、どうも沢山の人に嫌われちゃったみたいなんだ」
子どもは言った
「でも、自分ではどうしてそうなったのか、ずっとわからなかったんだ」
ボブは心がざわつくのを感じた
「でも、やっとわかった」
心が、痛み始めた。
「オレって、そういうひとなんだね」

子どもは、その少年は、話し相手をそっと持ち上げた。
「だけど、人がわかってくれるだろうなんて、考えちゃいけなかったんだね」
それが分からなかったんだね。子供だったんだね。
「だから恋人にも逃げられちゃったのさ」
少年は、話し相手をそっと草むらの中へ帰した。そしてぽつりと言った。

「でも、本心をさらけ出すと嫌われてしまうよね?
じゃあ、僕たちは誰に本当の気持ちを言えばいいの?
リアルでもネットでも、不器用で自分から居場所を壊してしまう人は
どこで生きればいいの?」

子どもは、バートは振り向いて、ボブを見た。ボブは、静かに言った

「探すしかない、本当の自分を愛してくれる人を」
「親ですらオレを嫌いになったのに、そんなひといるわけないよ」
「それでも、探し続けるんだ。いつか出会えるまで、ずっと、いつまでも」
「人は、誰か分かってくれる人を見つけるために、生きてるっていうの」
そんなの、悲しすぎるよ。バートは目をこすった。パーカーの袖が濡れていた。

「ああ、お願いだよ、もう一度だれか、オレを愛してくれないかな」





end.
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