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□ほとんど創作AM文
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マツブサは目をあけた。そして混乱した。自分がどこにいるのか、まったくわからない。
ここはどこだ。四方八方全部真っ白だ。すごく不気味だ。
マツブサは震えた。だがすぐに、左の扉がノックされた。
ドアが開き、白衣を着た男が入ってくると、わかっていても自分がビクつくのを押さえられなかった。
私は、研究所で人体実験でもされているのだろうか?
「ああ、マツブサさん起きましたか。アオギリさん!起きましたよ」
アオギリって、どういうことだ?

現れたアオギリは、普段の様子からは想像もできないほど憔悴していた。
そして私を見ると、顔が明るくなるかと思いきや、急にしゃがみこんでしまった。
「どうしたんだ?」
医者もなんだか複雑そうな顔をしている。私だけがなにもわからずに、混乱していて。
だがいつもの癖で髪を触ろうとすると、顔がぬれていた。
一瞬なんだか分からずに、驚いて顔を触ると、それは涙だった。
どうして私は泣いているんだ? しかも

「ああ、どうして」
どうしてこんなに心が痛いんだろう。

二人で桜並木のある公園を歩いた。
桜が満開で、もう散るばかりとなった風景は、とても美しい。
ふと、目の前を、親子のような兄弟のような人影が横切って、歩き去っていった。
とても中のいい、二人組。
心のなかの空っぽの部分が、また痛んだ。

「なあ、アオギリ」
「なんだよ、海洋学は糞ったれだとか言うなよな」
「そんなこと言ってない、ただ」
ただ、なんだ。
こいつが、何か知っているのか。知らないだろう。
「私が眠っている間に、何か」
「なにもないよ」
私はアオギリを見上げた。アオギリは無表情だった。
この男の無表情なんて顔は初めて見た。
「なんでもない」
これ以上、効かないほうがいいんだろう。
私のためにも、こいつのためにも。
「なあ、ソフトクリーム食わないか」
「食べない。まだ3月だぞ」
「いいじゃないか、桜見ながら食おうぜ」

アオギリは行ってしまった。私はベンチに落ちていた桜の花びらをそっと手に取った。

END
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