☆オタカラSTORY☆

□■by every possible means
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仮にも天才であるならば、戦略的に、生きたい。





-by every possible means-





世界一、もしくは、それに順ずる範囲での"天才"。

それが罷り通っているのは私の極、極、身辺だけの事であって、その実私は、ありふれた頭脳の持ち主なのではないだろうか。

なんせ私は極度の出不精で、世間の動向など情報として得るに止まり、実際のところは無知に等しい。

今の立場も功績も、全て捏造で煽て上げられているだけなのではないか、と。

そうも疑いたくもなる。

こんなに単純且つ、簡単な事にすら気付かなかったのだから。

私の目は、節穴どころかガラス玉だ。

いや、もういっそ、ごま餡の詰まった白玉だ。



‥‥脱線した。




こんな時、私は酷く自身に失望する。

世界一の間抜けにでも改名したくなる。


「そう思いませんか?ワタリ」

私の左斜め向かいで一通りを聞き終えたワタリは、緩く首を振り、空になったカップに茶を注ぎ足した。


「いえ‥ですが、」
「あぁ、いい」


これから言われるだろう苦言は分かりきっている。

お止めになった方がよろしいかと私は思います、だ。

思います、で締める事で、それがあくまで自分個人範囲での意見と示す。

私を諌め、尚且つ強制的に押し付ける訳でもなし。

賢い片腕に、知らず口角が上がった。


「これを2セット用意してくれ」

リストを受け取ったワタリは、もう私が何を言おうと聞き入れない事を悟り、もう一度緩く首を振るとそれらの調達に出かけた。





「B‥」
「‥‥‥、L」

その間は、見慣れぬ物を認識しようとする間だ。


「何のつもりだ、変態」
「変態、ではなく、天才です。今の私には素晴らしい閃きがあります」
「‥だろうな」

Bは苦い虫でも潰したように、顔を顰める。

顰め面の先には当然私が居るのだが、まぁ、この反応は妥当なものだ。

この状態の私を受け入れろとか、目的はそこではない。


「何かに開眼したのか?まぁそれは良いとしても、他人に見せびらかすような趣味じゃないな」
「私個人の趣味でしているわけでは、ありません」
「だったら何だよ」

着用しているエプロンドレスを摘まんで広げて見せると、Bは一層眉根を寄せた。




私が身に纏うのは、所謂メイド服。

色は黒で、女性が着れば胸やウエストラインの強調されそうなこれは、やや、実務寄りからは離れ趣味寄りだ。

「私のコピー、生き写し‥、この意味がわかりますか?」
「‥‥‥お前って本当‥、やっぱいいや」



Bは私の何もかもを摺り込まれ造られたデッドコピーだ。

必要性のある時以外は素でいるが、いざ私に成り済ます事態に備え、容姿に関しては、常日頃からほぼ完璧に踏襲している。

と、いう事はつまり、Bのメイド姿を堪能したければ、私が、着てしまえば良いのだ。

Bの髪を伸ばしたければ私が散髪を止め、Bの素肌を拝みたければ私は裸で生活をすれば良い。

どうして今まで気付かずに、散々な痛手を甘んじていたのだろうか。

私の現在しているこれこそが、正攻法だ。


「お前は馬鹿だな」
「えぇ、馬鹿でした。ですがそれも昨日までの事です、過去、です」
「現行だよ、ばぁか」


馬鹿、馬鹿、と連呼されるのも、可愛いメイド姿でされるのならば、悪くない。

いや、それどころか、そういうプレイだと思い込めば、なかなかにおいしい。


ほくそ笑んだ私に、Bは一瞥をくれた。



「その格好じゃ推理力80%減ってとこだろう?」


それはそうだ。

妙にスカスカな足元が落ち着かないし、腕のフリルも頭の飾りも極めて邪魔だ。


「2割のお前だったらオリジナルの俺の方が余程有能だ」
「‥‥‥!」

格下のコピーになる必要性を感じない、とBは最もな理由を吐き、押し付けがちに手渡した黒のドレスを突き返した。



私の天才的な閃きは、馬鹿の上塗りで玉砕した。
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