50万打

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『それじゃあ、元気でね』



必死に笑顔を作った私に気付かないふりをしてくれた景吾は小さな声で、悪い、と呟いた。
電車に乗り込むまで、景吾は見届けてくれた。
だけど、静まったホームには私の乗った最終電車と、いつものように凛と立つ景吾だけで、それが妙に堪えた。



「・・・・・・っ」

『さよなら、景吾』



発車のベルがホームに響き、ガタガタと音を立てて電車が進みだした。
窓の外の暗闇に浮かぶ町並みを見ながら、悲しみが後から後からじわりと体中から沁み出すようで。
ひくりと、頬を一筋の涙が滑った。
どうしてなのか、悲しく辛い思い出の方が遥かに多いはずなのに、脳裏に浮かぶのは優しく、そして温かな思い出だけ。
何度も何度も私を抱きしめ、好きだと言ってくれたのに。
耳に甦るのは悪い、と苦しげに呟く声ばかり。



言わなかった言葉が。
言えなかった言葉が。
私の頭をぐるぐる回って、どうしてなのか情けなくて、そして涙となって落ちる。
最後まで言わなかったけど。
最後まで言えなかったけど。



『私、本気で景吾のこと・・・好きだったよ』



ぽつりと、窓に浮かぶ私がそう告げた。
今ならこの悲しみだけで、死ねそうだと、本気でそう思った。









(窓の外の暗闇は、まるで私を呑み込むかのようだった)
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20080313
50万打記念リク
リクエスト者なし


 

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