その他小説

□あの日君がくれたもの
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昔むかし、一人の魔物と人間がいた。
二人は魔界の王を決める戦いのパートナーだった。
互いに助け合い、支え合い、本物の絆で結ばれた彼らは、まるで本当の兄弟の様だったという。

そうして彼らは順調に勝ち進み、着々と自分達が理想としている王に近づいていった・・・が、それと同時に不安も大きくなっていった。
『最後の一人になったら魔界に帰らなければいけない』『もう一緒にいられない』
無意識の内に感じ取った二人は、いつしかそのことには触れないという暗黙の了解ができていた。
が、そんな二人とは裏腹に、戦いの終わりは確実にすぐそばまで来ていた。

一時期、戦いを避けていたこともあった、一緒に戦ってくれている仲間の本を燃やさずずっと残しておこうと考えたこともあった。
だが、激しさを増す戦いに仲間の本は次々と燃えていき、戦わざるをえない戦いは増えていった。
やがて人間は悟る

『もう、逃げられない』

それから人間は、昼はできるだけ魔物の側に、夜は寝る間も惜しんであるものを作りはじめた。
名前は【バルカン300】
最初は、友達が欲しいと騒ぐ魔物をおとなしくさせるために、お菓子の箱と割り箸で作った、本当にちゃちな人形だった。

しかし魔物はそれを殊の外喜び、お世辞にもかっこいいとは言えないバルカンを「友達」と呼び、いつも連れて歩いていた。

『きっと喜んでくれる』

そう信じた人間は、自分の持っている全ての知識と技術使い、もっと頑丈で、いつまでも魔物の側にいられるバルカンを作り上げた。

そして、幸か不幸か。バルカンの完成とほぼ同時に、二人の別れの時はやって来る・・・。

正真正銘の一騎打ち。
激しい術の応酬に、どちらの人も魔物もボロボロだった。
そして決着がつく・・・。最後の術を放った後、自分達の魔本は最後の一冊になっていた。

相手の魔物の体が完全に消えた後、自分のパートナーの体も消え始めているいる事に気付いた。

ああ、お別れだ・・・

そして人間は、いつも背負っていたデイバックから完成したバルカンを取出し、魔物に渡した。
きょとんとした魔物をよそに、人間はそっと抱き締めてこういった。
「やさしい王様の夢、忘れるなよ。元気でな・・・」

その声は震えていて、顔を見ずとも泣くのを堪えているのがわかった、が、それ以上に魔物は泣いていた。泣きだしてしまうのを必死で堪えつつ、魔物は何度も何度も感謝の言葉を口にして・・・

この世界から消えてった。

人間にも、言いたいことは沢山あった。
でも、泣きながら呂律が回らない今の自分では、全部は伝えきれないだろうと知っていた。
だからこそ、あのバルカンに全てを託したのだ。
あの子の側に形で残る、自分との思い出として・・・
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