金の華

□幼稚な感情
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ぎしぎしと、胸が軋んだ。
俺の体に回された腕は酷く熱いはずなのに、俺の頭はどんどんと冷たく凍えていく。
自分がどんな表情をしているかさえ分からない。
自分が何処にいるのかさえ分からない。
前後どころか上下の区別すら出来なくなるような浮遊感。
激しい吐き気に苛まれながらも、俺はどうしてもそこを動けずにいた。

「……離して下さい」

大きなベッドの上に寝転がるのは俺と、持ち主である隊長。
酷く無意味で非生産的な行為を終えた後、隊長はこうして俺を抱き締めて眠る。
俺の体に腕を回し、脚を絡め、まるで恋人を相手にするように、俺の頭をその逞しい胸板に引き寄せて、子供のようにスヤスヤと。
それが、気持ち悪くて仕方がない。

「あぁ?」
「離して下さいと、言ったんすよ」

行為を終えた気だるい体を動かして、拘束する腕の中から這い出る。
動く度に、中に出された液体が溢れて足に伝うのが気持ち悪かった。
早く洗い流したいのに、俺の訴えをあっさりと、軽やかに聞き流した隊長は、再び俺をベッドの中に引き摺り込む。

「何するんすか」
「情緒のねぇ野郎だ」
「必要ないっすから」

そう。
間違えた事は言ってない。
隊長が求めている情緒とかムードとかなんて、俺には必要ない。

「それが欲しいなら、違う相手を探してください」

所詮俺は身代わりだ。
空の上じゃ女なんて買えないから、女の代わりに抱かれて隊長の性欲を発散させる、ただの身代わりだ。

「それでも良いのか?」

ニヤリと、隊長の口許が歪んだ笑みを浮かべて見せる。
良いのかなんて、随分と分かり切った事を聞く様になったもんだ。
それとも、俺が予想外の返事をするとでも思ってるんだろうか。

「自惚れんな」

俺はアンタなんか必要としていない。
隊長が俺以外の誰かを抱いたって、俺には何の関係もない。
ただ、毎日のように繰り返されるこの気持ち悪い日常が消えるだけだ。





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