金の華

□幼稚な感情
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「自惚れんな、ねぇ」

何が楽しいのか、隊長は俺の言葉を繰り返して笑う。
そういう意味の分からない余裕ぶった態度がムカつく。

「俺の役目は終わったっすよ。離して下さい」

絡まってくる隊長の腕を振り払ってようやくベッドから逃げ出した。
ベッドで寝転がる隊長の視線を背中に感じながら、脱ぎ散らかした服の中から自分の服を身に纏う。
今日は確か、ロッドと一緒に買い物に行く約束をしていた気がする。
早く風呂に入らなくては。

「今は……六時か」

壁にかかった簡素な時計を眺めて呟く。
これならゆっくり風呂を浴びて、この気持ち悪い感覚を洗い流せる。
よれたジーンズを穿いてシャツを羽織ると、隊長がのっそりと置きだして煙草を咥えた。

「時間なんか気にして、何かあるのか?」
「ロッドと出掛けるんです」
「俺を置いて楽しくデートかぁ?」

隊長の声が不機嫌そうに低くなる。
俺が何をしようと、もう関係ないはずなのに。

「隊長に、関係ないっす」

あぁ、体中が痛い。
ぎしぎしと、全身から軋んだ音がする。
頭なんて何を考えているか分からないほど真っ白で、どうしようもなく息苦しい。

「可愛くねぇな、お前」
「それで結構」

酷く冷たい隊長の声に振り返らずに答える。
背後に感じていた突き刺さるような視線はもうない。

「失礼しました」

可愛げなんて有った所で、俺は女の代わりでしかない癖に。

「アンタの望む通りの女を抱いてりゃ良いだろうが」




そこにあるべき感情が欠落した行為なんて、気持ち悪い以外に何物でもない。
心が手に入らないなら体だけでも、だなんて。
そんな風に割切れるほど、俺は大人じゃないんだ。






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