□伝えきれない愛
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『あっ銀・・・』

望美の鈴のような声が銀の耳に届いた。
薬草を届けに来ていた弁慶が 深い溜息を吐いた・・・。
銀と並んで歩いていた将臣が不思議な顔を向けた。

『おい。望美が呼んでいるのが聞こえなかったのか?』
『さぁ?神子殿は本当に私を お呼びでしたか?』
真直ぐに前を向いたまま 銀は歩みを止めない。

『はっ?お前の他に銀って名前は この中にいねぇだろう?』
『左様ですか?将臣殿の空耳・・・幻聴だったのではないですか?』
『はっ?』

将臣は立ち止まり 望美を振り返り
こちらも深い溜息を吐いた・・・。
今にも泣き出しそうな不安な瞳が銀の後姿を見つめている。

『おい。痴話喧嘩もいいが 取られてもしらないぞ』
ビクリと銀の歩みが止まった。


『どうかしましたか?望美さん?』
『ずっとあんななの・・・』
『はっ?』
『銀ったら この2日間ずっと あたしを無視なんだ。
 もう嫌われたのかな・・・・』
『・・・・。』
『嫌われたのなら・・・帰るしかないんだけれど・・・』
ポツリと望美が淋しそうに俯いて呟いた。
『嫌われてなどいませんよ。安心なさい。
 何か原因があるとは思うのですが 思い当たる節はないのですか?』
望美は俯いたままブンブンと首を横に振った。

『そうですか・・・・。
 では一緒に思い返してみましょう。原因が解るかもしれませんよ』
望美は顔を上げると縋るような瞳で弁慶を見た。
その瞳は兎のように可愛く疑いのウの字も感じられない。
下心のない男などいないのに・・・・
弁慶はそう思いながら 望美の肩に手を触れようとした。

『神子様』
心から聞きたかった優しい声が望美の鼓膜を揺さぶった。
弁慶から視線を移せば そこには此方を向いた銀がいる。
我慢していた涙がポロリと頬を伝った・・・。

『さぁ・・・ここへ・・・』
銀の言葉が終わらない内に 広げられた両手に飛び込んだ。
銀はポンポンと望美の背中を叩くと 小さな溜息を吐く。
『全く・・・貴女という人は人を疑うことを知らない・・・』
『えっ?』
涙目の望美がそっと銀を見上げた。
『放っておくと・・直ぐ誰かに取られてしまいそうだし
 どうしたら良いのでしょうね・・・・』
『嫌われたのなら・・・帰るしかないし
 そうでないのなら・・・ずっと傍にいるんだもん・・・』
『嫌ってなどいません』
『じゃぁどうして無視するの!!』
『貴女が余りにも私だけのものにならないからです!!』
『えっ?』
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